ウソから出たマコト~ニセモノの愛から生まれたホンモノの恋~
エレベ-タ-のインジゲ-タ-が30という数字を示すと、扉が開き、ふたりはフロアに降りた。凪咲の手を引いたまま、歩き出した裕は、1番奥にある部屋の扉の前に立つと、カードキーを取り出し、中に入る。


中に入ると、広い窓一面に広がる東京の夜景が、2人の目に飛び込んで来た。


これまで表情が固いままだった凪咲が、さすがに息を呑んだのを横で感じた裕は、彼女と手を繋いだまま、しばし、目の前の光景を見つめていたが、やがて彼女の手を離し、部屋の灯りを点ける。


その部屋の明るさに、ハッと我に返った凪咲が裕を見ると


「どうぞ、こちらへ。」


そう言って、うやうやしくテーブルへと誘う。その言葉に、凪咲がダイニングテーブルに目をやると、そこにはワイングラスを始めとした食器が既に二組セッティングされている。


「裕は今日、最初から、私をここに連れて来るつもりだったの?」


思わず、凪咲が尋ねると


「一緒に食事はマストだと思ってたが、最初はどこかのレストランでもと思ったんだ。だが、久しぶりの凪咲との食事は、どうしても自分で振舞いたくなって。」


裕は答える。


「裕・・・。」


「下ごしらえは出来てるから、そんなに時間はかからない。とにかく、お前の舌を絶対に満足させる自信はあるから、待っててくれ。」


「・・・わかりました、よろしくお願いします。」


とうとう、そう答えた凪咲に、笑顔を向けて頷くと、裕にキッチンに入って行く。


その後ろ姿を見送ったあと、凪咲は改めて、窓一杯に広がる夜景に目をやる。しばし、その美しい光景に目を奪われていた凪咲だったが、やがて、部屋の中に視線を移す。


(いったい、家賃はいくらぐらいなんだろう?ここにひとりで住めるんだから、やっぱり御曹司なんだよね・・・。)


やっぱり裕とは、住む世界が違い過ぎる。そのことを改めて、思い知らされたような気がして、凪咲はフッと息を吐いた。


そして、待つこと20分ほど。


「お待たせしました。」


ネクタイ、Yシャツの上にエプロンという珍妙な格好で現れた裕は


「まず、お飲み物はいかがいたしましょう?」


と尋ねる。


「お水で結構です。」


「アルコ-ルもご用意してますが。」


「い、いえ、結構です。」


慌てたように、首をブンブン振って答える凪咲に、思わずニヤリと笑みを浮かべると、キッチンに戻り、ミネラルウォ-タ-の瓶を手にすると、テーブルに戻り、凪咲の前ともう1つのグラスに注いだ。
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