ウソから出たマコト~ニセモノの愛から生まれたホンモノの恋~
「俺は生まれた時点で、既に歩むべき人生のレールが敷かれていた。そのことに疑問や反発を全く感じなかったわけじゃないが、それでも概ねそのレールの上を歩んで来た。学校も、親に言われるままに進学し、就職も、まずは親父の親友の会社で修業して来いと言われ、その会社に就職した。そしてその頃に、俺はひとりの女性と引き合わされた。この方が将来、お前と結婚することになるお嬢さんだよって。」


「・・・。」


「『初めまして、よろしくお願いします。』そう言って、俺に一礼して、ニッコリと微笑んだその子は、俺よりひとつ下の清楚な感じの女性だった。AOYAMAのお取引先の社長の娘さんで、まぁ絵に描いたような政略結婚っていう奴さ。その後、2人きりにされて、少し話をした。一応、『あなたはこのことに納得してるんですか?』って聞いたら、『はい。』と躊躇いなく答えるから、俺も受け入れることにした。実はいずれ、こんなことになるんじゃないかって、小さい頃から思ってたんだ。だから恋愛なんかしても無駄だと諦めてたし、俺をAOYAMAの社長の息子だと知った途端に、目を輝かせて近付いて来る女どもには、正直うんざりしてたから、『僕には将来を約束した許嫁がいます』って言って、追っ払ってたからな。それが現実になったんだなと思うことにしたんだ。」


苦笑い交じりで裕は言う。


「そして俺は大塚ケミカルズに入社した。配属は、俺が希望した商品開発研究室。ここで3年間勤めたあと、AOYAMAに入って、まず1年は海外勤務、そして本社に戻る。そういう予定だった。俺、いずれAOYAMAで社長やらなきゃならないことはわかってたんだけど、実は経営になんか1ミリも興味がなかった。だからAOYAMAでも本当は、そっちの方に進みたくて、親父にもそう言ったら、どやされたけどな。」


「それは・・・当たり前でしょ。」


凪咲は、やや呆れ顔。


「やっぱ、そっか。でも、大塚での3年間は、とにかく楽しかったよ。あんまり、目立たないように、大人しくしてたけど、妙な色眼鏡で見られることもなく、好きな研究職に没頭出来たからな。それに・・・ちょっと気になる人が出来たんだ。」


「えっ?・・・。」
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