ウソから出たマコト~ニセモノの愛から生まれたホンモノの恋~
AOYAMAの業務改善委員会が始動してから、半年が過ぎた。新城社長自らが提唱して、自らの後継者と擬されている長男の裕をわざわざ海外から呼び返して、トップに据えてスタ-トしたプロジェクトではあったが、社内の反応はさまざまだった。


「改善、改革は唱えるのは易しだが、実際に行うのは難しだよ。」
「『カイゼン』の元祖である自動車メーカ-から、わざわざ人を招いて、会社を挙げて取り組んだ企業もあるが、思った成果を挙げられてないケースもある。」
「改善の美名に隠れた、単なるリストラ。」


といった冷めた声、批判的な声が聞かれ、そして何より、社内的には、突如どこからか舞い降りて来たようにしか見えない若き御曹司の人柄、手腕を疑問視、不安視する声が大きかった。実際、帰国当初の裕の言動は顰蹙を買うことが少なくなかったのは、事実だった。


その上、裕が選んだスタッフは、彼同様20代の社内でのキャリアがまだ浅い面々がメインだったことも、世代間の軋轢を生みかねない状況にもあった。そのことについて、裕は


「若い世代を選んだのは、自分を含め、まだ社風に染まり切ってない、比較的、今の会社の業務を客観的に見られるメンバ-を集めたかったから。」


と説明し


「改善の目的は、業務を見直して今よりも良くしていくこと。作業や業務の中にあるムダを排除し、より価値が高いものだけを行えるように、作業や業務のやり方を変えることです。『ムダの排除』という言葉からリストラを連想する人は多いかもしれないが、それは違う。我々の目標は『現状を満足せず、今よりもっと良くする』ことです。課題を現場のみなさんと我々が共有し、対策を考え、改善していくというプロセスを踏んで、進んで行かなくてはなりません。」


そう社内向けには説いた。


「いざとなれば、社長直属のプロジェクトであるという威光をちらつかせる必要があるかもしれないが、それをやらなきゃならないということは、このプロジェクトがうまく行ってない証拠だ。」


裕がこんな言葉を漏らしたのを聞いた秘書の凪咲は


(「トップダウン」じゃなく「ボトムアップ」じゃなくちゃ、このプロジェクトの最終的な成功はない。裕はそう思ってるんだな・・・。)


そう彼の心情を慮った。


実際に裕は、決して御曹司という自らの立場を笠に着て、意見や意向を相手に押し付けるような態度をとることはなかった。こうして相手の胸襟を開かせ、徐々に社内の反発、警戒ムードを鎮め、物事を進めて行った。
< 161 / 178 >

この作品をシェア

pagetop