ウソから出たマコト~ニセモノの愛から生まれたホンモノの恋~
そしてこの日、凪咲は裕のお供で、古巣の受付ブースを訪ねていた。終業チャイムが鳴り、正面入口はクロ-ズされ、本来なら警備員と交代して、この場を離れているはずのチ-フの桜内貴恵以下、3名の受付嬢たちが、2人を迎えていた。


この日から、AOYAMAの受付ブースは、タブレット装置を併設した、新システムが導入され


「お疲れ様。どうだった?」


様子を尋ねる裕に


「操作に戸惑うことは正直ありましたけど、なんとかご来館のお客さまには、大きなご迷惑をお掛けすることはなかったと思います。慣れるまで、まだ少し時間は必要だと思いますが、これまでより作業効率が上がり、お客様をお待たせすることは、だいぶ少なくなると思います。」


貴恵が笑顔で答える。


裕のプロジェクトチ-ムがブースにヒアリングに入った時、まず遭遇したのは、貴恵の強烈な拒否反応だった。


「AOYAMAの受付ブースは有人であるべきです。そうじゃなくては、業務も回りませんし、なにより企業のステ-タスにも関わります!」


有人受付の存在は、大企業の証、貴恵はそう言いたいようだった。


「桜内さんには、いや千晶ちゃんにも凪咲にも謝らなきゃならないことがある。」


やや興奮気味の貴恵を宥めるように、裕は言う。意外な彼の言葉に、訝しそうな表情を浮かべた貴恵に


「このプロジェクトが立ち上がる際、有人受付ブースの廃止が議題の1つに挙がっていると言う話が流れた。どこか特定の部署や作業を最初から、廃止ありきで検討するというのは、当プロジェクトのリーダーである俺としては全く想定してなかったのにだ。更に、君たち受付嬢に対する、常務のやや的外れな批判も耳に届いて、不安や不快な思いをさせてしまった。これは俺のやりかたや情報管理が不味かったからだ。本当に済まなかった。」


そう言って、裕は貴恵に頭を下げた。


「いえ・・・私の方こそ、興奮して、失礼なことを申し上げたかもしれません。申し訳ありませんでした。」


御曹司に頭を下げられて、貴恵もさすがに、殊勝な態度を見せた。


「凪咲の後任の受付嬢さんにも来ていただいて、会社が有人受付を廃止するつもりはないことは、桜内さんも理解してくれたと思う。俺もステイタスうんぬんはともかく、今のAOYAMAで有人ブースを廃止するのは無理だと思うし、OGである凪咲も三嶋さんも同意見だから、その点は議論の余地はないと思う。そこで、桜内さん。」


「はい。」


「業務改善には八原則っていうのがあってね。」


貴恵が落ち着いたのを見て、裕は笑顔で話し始めた。
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