ウソから出たマコト~ニセモノの愛から生まれたホンモノの恋~
その後、連れ立って、会社を出た凪咲と裕。


「でもブースの新システムが、無事稼働してよかった。」


ハンドルを握りながら、話し掛ける裕に対して


「そうだね。」


と答えた凪咲の声色は素っ気なく、思わず横目で彼女を見ると、何やらブスッとした顔で、窓の外を見ている。


「疲れただろう。今日は何か食べて帰ろうか?」


改めて、声を掛けるが


「ううん、いい。もうお夕飯のおかずの鶏肉、解凍しちゃったし。」


と答える凪咲の声はやはり、ちょっと尖っている。


(どうしたんだ、急に?)


夕方までは普通だったのに、急にご機嫌斜めになった恋人に、裕は内心で首を捻る。


そう、ふたりは既に恋人同士だった。凪咲が裕の部屋に引っ込して同棲を始めてから、完全に陥落するまで、結果的には2週間ほどだった。


「やっとご馳走が手に入る。どんなに我慢したか。」


「好きに・・・して下さい。」


初めて、同じベッドの中で見つめ合った時、ふたりはこんなベタな会話を交わしたものだ。心身ともに結ばれたふたりは、それから離れていた時間を取り戻そうとするかのように、ずっと一緒にいる。公私、ともに・・・。


でも、この日は、車を降りて、部屋に戻り裕が、帰宅後恒例のお疲れ様のキスを交わそうとすると


「着換えて、お夕飯の準備するから。」


凪咲はスルリと体をかわして、そのまま自分の部屋に入って行く。


(なんなんだよ・・・。)


さすがに裕もムッとしたが、ここで声を荒げたりしても仕方がないので、取り敢えず自分も着替えに向かう。着替えをしながら、いろいろ考えてみるが、どうしても急な凪咲の不機嫌の理由がわからず、着換え終わるとキッチンに向かう。


すると、やっぱり凪咲が仏頂面で、料理をしているから


「凪咲~、何をそんなに怒ってるんだよ~。」


と言いながら、後ろから抱きしめると


「ちょっと、料理の邪魔!あっち行っててよ。」


邪険に振り払って来るから


「なんだよ、一体何が気に入らないんだよ。」


さすがに頭にきて、裕も少し強めの声を出してしまう。
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