ウソから出たマコト~ニセモノの愛から生まれたホンモノの恋~
それから、月日が流れて・・・。


今、凪咲は裕の繰る車の助手席に座り、一路故郷を目指していた。出発時からほとんど言葉を発しないまま、固い表情でハンドルを握っている恋人の横顔と外の景色を、凪咲はしばらく交互に眺めていたが、とうとう


「緊張してる?」


と尋ねてみた。すると


「緊張してるなんてもんじゃない、吐きそうだ。」


真っ過ぐに前を向いたまま、凪咲の顔を見ずに裕は即答する。それに対して


「確かに私もこの間は緊張したけど、吐きそうは大袈裟じゃない?」。


と応じた凪咲。実は彼女も先日、裕の実家を訪れていた。裕の父親である新城正社長は、凪咲とは社内で面識があり、その人柄や能力も認めてくれていたが、母親の慶子(けいこ)


「以前、訳アリだったそうだけど、半年間同棲し、今また、改めて一緒に暮らしているということは、ふたりの間では、将来に関するある程度の約束が出来ているのかもしれないけど、失礼ながら、AOYAMAの御曹司であるあなたのお相手が、派遣社員とはいかがなものなの?とにかく、1度彼女さんにお目に掛かって、お人柄を見極めさせていただかないと。」


と裕に言い渡した。それを受けて、凪咲が緊張の面持ちで、裕に伴われて、彼の実家の門を潜ったといういきさつだった。


「お待ちしておりました。」


当日、慶子に、射貫くような視線で迎えられた凪咲は、思わずたじろいだ。とにかく


「ウチのおふくろはおっかない、というより俺、苦手だ。」


息子の裕がこんな頼りないことを言っている有様。正とはお見合い結婚だそうだが、その初対面の席で


「私はこの縁談に何の異議もありませんし、あなたの後継者となるべき子供も産んで差し上げますが、その子を育てながら、家庭を守り、内助の功に徹する妻をあなたがお求めなら、この縁談はお断りになった方がよろしいと思います。」


と言い放って、双方の両親を蒼くさせたらしい。もっとも当の正は


「興味深い女性にお目に掛かれました、是非よろしくお願いします。」


即答で、その場で婚約が成立、結婚に至ったのだという。


その後、結婚当初は家庭に入り、妊活に励んだ慶子だったが、すぐに裕を産むと、約束は果たしたと言わんばかりに仕事に邁進し、現在はAOYAMAグル-プの何社かのトップを兼任して、辣腕を揮っている。
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