ウソから出たマコト~ニセモノの愛から生まれたホンモノの恋~
「新城です。」


「本日からご一泊でご予約いただいております新城様ですね、お待ち申し上げておりました。」


そう言って、恭しく頭を下げたクラ-クが


「それでは、まずはこちらにご記入をお願いいたします。」


裕にペンを差し出す。所定の記入と手続きが終わると


「ありがとうございます。それでは、お部屋までご案内いたします。」


「よろしく。」


クラ-クは後ろに控えるスタッフに目くばせし


「それでは、最上階ロイヤルスイ-トまで、ご案内いたします。」


それを受けて、笑顔のスタッフが頭を下げると、ふたりを先導して歩き出す。


「ごゆっくりとお過ごし下さいませ。」


その後ろ姿に向かって「二階彩(にかいあや)」という名札を左胸に付けた、そのフロントクラ-クはまた恭しく頭を下げて、見送っていた。


だが、送られた方の凪咲は、そんな優雅な心境ではなかった。


(ロイヤルスイ-トって・・・。)


ここ、ホテルクラウンプラザは、地元ではNO1と言われる高級ホテル。実際に部屋に入れば、ふたりで過ごすには、あまりにも贅沢な広い空間が広がっている。動揺する凪咲は、案内スタッフが下がったのを待ちかねたように


「裕、これはどういうこと?」


と尋ねるが


「さっきのフロントクラ-ク、素敵だったな。指輪嵌めてたから、既婚者だったけど。」


「えっ?」


「やっぱり、人が人を出迎えてくれるって、いいもんだよな。ウチも有人受付、廃止しなくて、正解だった。」


裕は悠然たるもの。


「そうじゃなくてさ、どうしてこんな立派なお部屋に急に・・・。」


「せっかく、こっちに来たんだから、温泉にでもゆっくり浸かりたかったから、凪咲の元カレの旅館に泊まろうかと思ったんだけど、さすがにそうもいかないからな。」


「元カレじゃないから、ってそういうことじゃなくて・・・。」


「いいじゃないか。せっかくの記念日なんだから、少しくらい贅沢したって。」


「少しくらいじゃないでしょ。だいたい、今日が何の記念日なのよ?」


「わからないか?」


「わからないよ。」


「まぁいい、もうすぐわかるさ。取り敢えず、座ろうぜ。さすがに疲れたよ。」


そう言って、笑い掛けた裕は、窓際に置かれているソファに腰掛ける。それを見た凪咲も、仕方なく、彼の横に座った。
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