ウソから出たマコト~ニセモノの愛から生まれたホンモノの恋~
その後は、何事もなく、終業時間を迎えた凪咲たち。いつものように、警備員に引継ぎを済ませ、ブースを離れた3人。


「あ~あ、今週も終わりましたねぇ。」


エレベ-タ-に向かいながら、千晶がそんなことを言いながら、1つ伸びをすると


「なにやってるの?まだ誰が見てるかわからないのよ。こんな所でそんなだらけた態度とらないでよ。」


すぐに貴恵の鋭い声が飛ぶ。その言葉に、一瞬うんざりした表情を浮かべた千晶は


「もう無理!」


と声を上げた。


「私、貴恵さんみたいにお淑やかになんか振る舞えませんし、それにこんな年がら年中、誰かの目を気にしなくちゃいけない仕事なんて、もうやってられません!」


「ちょ、ちょっと、千晶ちゃん。」


興奮して、そんなことを言い出した千晶を、凪咲は慌ててやって来たエレベ-タ-の中に押し込んだ。扉が閉まると


「貴恵さんも凪咲さんも、私が受付嬢なんて向いてないの、もうわかってるでしょ?」


「・・・。」


千晶は訴えるように2人に言う。


「だったら、私を総務事務に戻して下さい。私、なりたくて受付嬢になったわけじゃないんで。」


「千晶ちゃん、気持ちはわかるけど、会社の仕事って、やりたいとかやりたくないで決められるものじゃないし・・・。」


宥める凪咲に


「派遣社員のあなたに、私の気持ちなんか、わかるわけないでしょ!」


千晶が言い放つと、言葉を失ったように凪咲は黙る。そんな2人のやり取りを見つめていた貴恵は


「千晶、そんなに受付嬢の仕事が嫌なら、月曜日、辞表持って来な。」


冷ややかな声で言う。


「えっ?」


「菱見さんが言った通り、会社の人事って、そんな個人の我が儘が通るほど甘くないんだよ。そのくらい、あんただって、昨日今日入社した新人じゃないんだから、わかってるでしょ。」


「桜内さん・・・。」


突き放すような貴恵の言葉に、思わず凪咲が彼女の顔を見ると、エレベ-タ-が止まり、扉が開いた。なんとも言えない空気のまま、降り立った3人は、そのまま更衣室に向かって歩き出したが、ふと足を止めた貴恵は


「千晶。」


と呼び掛けて来た。


「どうしても、我慢できないんなら、辞表出せばいいけど、もう少し我慢した方がいいかもよ。そしたら、あんたの望み、叶うかもしれない。」


「えっ?」


「その時は、悪いけど菱見さんはこの会社では、居場所を失うことになる。もちろん私も、ね・・・。」


意味深な言葉を残すと、固まる2人を残して、貴恵はひとり、更衣室に入って行った。
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