ウソから出たマコト~ニセモノの愛から生まれたホンモノの恋~
その後は、その話題を口にすることは憚られ、貴恵にあの言葉の真意を尋ねることなど出来るわけもなく、また尋ねたとしても、恐らく彼女が答えてくれることはないだろうということは、容易に想像できた。凪咲も千晶も、多忙の週明けの受付業務に邁進するしかなかったし、貴恵もまたいつもの、いつも通りの完璧な受付嬢だった。


早川が絡んで来ることもなく、その日1日の業務を終了した受付嬢たち。


「じゃ、また明日。」


着換えも終わり、いつも通りに更衣室を後にする貴恵の後ろ姿を、黙って見送っていた凪咲に


「今日くらいは、お誘いすれば、貴恵さん付き合ってくれましたかね?」


千晶が声を掛ける。


「さぁ、どうかな?」


「私たちはどうします?」


「さすがに少し話したいよね。」


「じゃ、お付き合いいただけますか?」


「あんまり高くない所でよろしく。」


冗談めかした凪咲の言葉に、千晶が顔をほころばせて、2人も更衣室を出た。


2人が選んだのは、会社から少し離れたファミレス。仕事帰りに同僚たちが息抜き、付き合いの場に選ぶ確率はそんな高くないと踏んだからだ。実際、店内に見知った顔はなく、ホッとして席に着いた2人。


「でもさ。こうやって、お店に入っても、注文はタッチパネル。そうして、注文した品物を運んで来てくれるのはロボットくん。こうして、機械化が進んで行って、いまや接客って仕事はどんどん排除されて行く方向に向かってる。だから、『受付』という業務も排除されつつある職種のひとつだよね。」


「・・・。」


「中小企業では入口に内線電話がひとつ置いてあって、来社する人が直接担当者に取次ぎをする。そんな光景ももう、全然珍しくなくなっちゃった。」


注文を済ませた途端、いきなりそんなことを言い出した凪咲に


「確かに中小企業ではそうかもしれません。でも、ウチのような大企業じゃ、同じようなわけにはいかないと思います。」


千晶は反論するように言う。


「そうだよね、多い時には1,000人もの人が訪れるAOYAMAで同じことをしたら、内線電話の前に何人の行列が出来ちゃうか、わかったものじゃないよね。」


そう言って凪咲は笑った。
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