ウソから出たマコト~ニセモノの愛から生まれたホンモノの恋~
「それにしても、業務改善委員会かぁ・・・。参ったね。」


しかし、すぐに浮かない表情に変わった凪咲がそう言うと


「かねて社長が、『脱・感染症後の新しい社会に適応した企業作りの為の業務の改善、見直しが必要だ』ってよく言ってるって話は聞いたことがありますけど・・・。」


千晶は答える。


「要するに、私たちの仕事は、新時代にそぐわないと目を付けられちゃったってわけか・・・。」


「そういうことなんですかね・・・。」


2人はここで思わず、ため息を吐く。


「でも、考えてみればさ。」


「はい。」


「それを覆す為に、私たちの存在価値をアピ-ルするのって難しいよね。だって、営業部門と違って、私たちの仕事って明確な数字の指標ってないじゃない。例えば、今日の来客が500人で、明日が700人だったとしても、それって私たちが頑張ったから増えたわけじゃないし。」


「そうですね。」


「だから、私たちのような非営業部門って、結局リストラとかのターゲットになりやすいのよ。」


「じゃ、明日からストライキでもしましょうか?私たちが今の仕事、ボイコットしたら、もうパニックですよ。」


「確かにね。でも残念ながら現実にはそんなこと出来ないし・・・。」


なんとも意気の上がらないふたりに対して、貴恵はいつもように、いや、いつもにも増して、業務に誠心誠意、そして精力的に取り組んでいた。その上司の姿は、当然凪咲たちに悪い影響を与えるはずはなかった。


(そうだよ、落ち込んだり、投げやりになってる場合じゃない。)


凪咲は、改めて自分を奮い立たせる。


そして迎えた終礼。周囲に聞こえないように配慮しながら貴恵は


「栗木常務って現場にいる時から、営業部門以外を見下してるって有名だった。それに、男社会がなかなか打破されないのは、男のアシスタントやマスコットに甘んじている女が多いからだって、かねがね口にしてるそうよ。だから受付嬢なんて存在が、我慢ならないんでしょ、あの人には。」


と吐き捨てるように言った。


「今どき、ウチに来社されるお客様が男性ばかりとでも、常務さんは思ってるんですかね?」


「まさか、そんなことはないと思うけど、とにかく困った人よ。」


貴恵はやれやれといった表情を浮かべた。
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