ウソから出たマコト~ニセモノの愛から生まれたホンモノの恋~
「だから私たちに対する当たりは強かったし、しごかれたし、まぁはっきり言って、いじめに近い部分もあったかな?それで音を上げて、もう1人の子は半年で逃げ出した。私も後に続こうかと思ったけど、あの子ほど若くはなかったし、次がすぐに見つかる自信もなかったから、なんとかしがみついてる内に段々、桜内さんの信頼を得られるようになって、今日に到ってるっていうのが、現実なんだ。」


そう言って、チラリと笑みを浮かべた凪咲は、しかしすぐにそれを収めると


「三嶋さんが他部門からチ-フとして異動して来た時も、桜内さんは面白くなかったはずだよ。入社以来受付嬢一筋でやって来た私が、なんでよそ者の風下に立たなきゃいけないんだって。でもその点、三嶋さんは賢明だったから、そんな彼女の思いを察して、彼女を立てて、彼女から謙虚にいろいろ学んで、すぐに彼女を心服させるチ-フになったみたいだけど。」


と言葉を続けた。


「そうだったんですか・・・。」


「とにかく、桜内さんは入社以来、このブースを守り抜いて来た、誇り高き生粋の受付嬢なんだよ。そのブースに自分の居場所が無くなってしまった時、桜内さんがこの会社に留まるとは、私にはとても思えない。」


「凪咲さん・・・。」


「桜内さんのやり方、考え方には賛否両論あると思う。でも、私は彼女と同い年だけど、素直に尊敬する。私も彼女くらい、自分の仕事に誇りと自信を持ててればな・・・。」


そう言って、凪咲は少し、遠くを見るような表情になった。


それから1週間が過ぎ、2週間が過ぎ・・・しかし特に変わったことが起こることはなく、凪咲はこれまで通りの勤務を続けていた。貴恵から何か言われることもなく、周囲から変な空気が伝わってくることもなかった。


(業務改善委員会なる組織が、実際に動き出したという話は聞かないし、今後どのようなスケジュ-ルで動いて、どんな議論を重ねているのか、派遣社員の私には窺い知ることも出来ない。そして、そこで何が決まったとしても、『かしこまりました』って返事をすることしか出来ないんだから。だとしたら、余計なことを考えずに、自分のやるべきことをキチンと1つ1つこなしていくだけ。)


凪咲はある意味、そう開き直っていたのだが・・・事態は、急に動き出したのだ。
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