ウソから出たマコト~ニセモノの愛から生まれたホンモノの恋~
そして、ついに男がサングラスを外すと


「ということで、新城裕です。ちなみに正真正銘本人ですので、以後お見知りおきを。」


そう名乗った。


「社長室は8Fだっけ?なにしろ、入社してから1回しか顔を出してないから、忘れちゃったよ。」


「は、はい・・・。」


「じゃ、取り敢えず、親父に帰朝挨拶に行って来るんで、また後ほど。」


そう言って、ニヤッと2人に笑い掛けて、右手を上げると、裕はクルリと背を向け、周囲からの驚きの視線をものともせず、そのままエレベ-タ-に乗り込んで行った。


「あの男、どこから入って来たのよ・・・って、そんなこと言ってる場合じゃないわよね。」


ようやく我に返った貴恵が、慌てて社長室に連絡を取っている横で


(ウソでしょ・・・なんで、なんで彼がここに・・・新城裕って・・・どういうことよ・・・?)


混乱と動揺を抱えて、立ち尽くしていた凪咲は、仕事どころではなくなってしまった。戻って来た千晶が


「え~、もう来ちゃったんですかぁ?来るの、夕方じゃなかったんですか?ずるいですよ、2人とも。」


「何がずるいのよ?」


「だって、あんなに楽しみにしてたのに、私だけジュニアに会えなかったんですよ~。」


「そんなの仕方ないでしょ?大丈夫よ、これから毎日、嫌というほど顔見ることになるんだから。」


「そういう問題じゃないですよ。それで、どうでした?やっぱりイケメンでした?」


「さぁ?本当に突然のことで、こっちはそれどころじゃなかったわよ。」


なんて、貴恵とやり合っている横で、沈黙を続けた凪咲は、来客が現れても、反応なく立ち尽くしているだけで


「どうしたの?菱見さん。ボヤっとしてる場合じゃないでしょ、しっかりして。」


貴恵が窘めるように声を掛ける。


「す、すみません。」


ハッとして、慌てて頭を下げる凪咲に


「凪咲さんがそんな心奪われるくらい、イケメンだったんですか、ジュニア?」


冷やかすように千晶が言うと


「そんなんじゃないって!」


思わず、強い口調で返してしまう凪咲。


「凪咲さん・・・。」


普段の物静かな凪咲らしからぬその語気に、千晶だけでなく貴恵も、思わず彼女の顔を見つめる。


「ご、ごめんなさい。本当に何でもないですから・・・ごめんなさい。」


その2人の反応に、慌てて凪咲は頭を下げる。それを見た貴恵が


「全く、あの男のお陰ですっかり調子狂っちゃった。とにかく今は勤務中なんだから、集中!」


「はい。」


気合を入れ直すように頷くと、凪咲は前を向いた。
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