ウソから出たマコト~ニセモノの愛から生まれたホンモノの恋~
「うん。3年生の時に、一緒のクラスだったし、文化祭の実行委員を一緒にやったこともあるけど。でも正直、その時もそんなに話したわけじゃなかったし・・・後は、せいぜい成人式の後の同窓会で、何人かで話したことがあるくらいだよ。」


戸惑いを隠せないまま答えた凪咲だったが


「そうなのか。先方はだいぶ、お前のことを気に入って下さってるような話だったぞ。」


と父に言われて、いよいよ驚く。


「言うまでもなく、鳳凰さんは地元の誇る老舗旅館だ。ウチも昔からお世話になっている。」


凪咲の実家は、祖父の代から精肉店を営んでいて、鳳凰にも商品を納めていた。


「そこの御曹司の嫁に望まれるということは、お前はいずれ、あの老舗旅館を女将として切り盛りするということだ。名誉なことじゃないか。」


そう言って、初めて笑顔になった父を、凪咲は唖然として見つめていたが


「明日の顔合わせが終わったら、お前は速やかに地元に戻って来て、彼の実家の家業である旅館に就職。花嫁修業と女将修行をしながら、嫁ぐ日を待つことになる。」


とまるで決定事項のように告げられるに到って


「ちょっと待って。それじゃもうお見合いじゃないし、そんなこと、勝手に決めて、当たり前のような顔で今言われても、私の意思はどこにも入ってないじゃない!」


強い口調で、抗議するように言った。語気は強かった。


「この話は、別に昨日今日にいただいたわけじゃない。お前の成人式が終わってから、すぐにいただいたんだ。」


「えっ・・・?」


「向こう様から、是非ともお前を息子の嫁にとのご所望でな。私も母さんも正直ありがたいと思ったが、それでも即答せずに、今日までお待ちいただいたのは、今どき、学生からすぐに嫁入りというのは、あまりにも凪咲が可哀想だと母さんも言うし、老舗旅館を切り盛りする女将になる為には、社会勉強も必要だろうと思ったからだ。それに」


「それに?」


「お前が自分で、将来を共に歩むパートナ-を見つけて来るなら、その時はお前の意思を尊重しようと思っていたからだ。」


「お父さん・・・。」


「だがお前は、25歳になろうというのに、全くそんな様子も見せない。もう待てないし、先方をお待たせ出来ない。それが私と母さんの判断だ。いいな。」


そう言い放った直也に


「ちょっと父さん、そりゃいくらなんで横暴だよ。」


これまで黙っていた勉が口を挟んだ。
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