ウソから出たマコト~ニセモノの愛から生まれたホンモノの恋~
部屋を出て行こうとする娘の姿に、ハッと我に返ったように


「凪咲!」


直也は呼び止めるが、その声に振り向きもせず、凪咲は実家を飛び出していた。


「ちょっと待てよ。」


後ろから、勉が追い付いて来た。


「おにい、引き止めないで。」


「別に引き止めるつもりはない。」


「えっ?」


「駅まで送ってってやるよ。」


そう言って、ニヤッと笑った兄に


「・・・ありがとう。」


思わずホッとしながら、凪咲も笑顔になった。


こうして車上の人になった兄妹。助手席で黙って、前を見ている凪咲の耳に


「お前、あれ、出まかせだろ。」


という勉の声が聞こえて来て、凪咲はハッと横を見た。


「彼氏がいるってこと?」


「ああ。」


「うん・・・。」


コクンと頷いた妹に


「だと思った。」


前を向いたまま、勉は笑った。


「だって、ああでも言わないと、どうしようもなかったじゃない。」


そう言って、唇を尖らせる凪咲。


「そんなに嫌だったか?見合い。」


「当たり前じゃない。今日の明日で、いきなりあんなことを急に、それもほとんど決定事項みたいに言われて。おにいだって断るでしょ?」


「相手次第だな。相手がそれこそ絶世の美女だったら考えるかも。」


「もう、他人事だと思って。それに、そんなことを言ってると、充希(みつき)に言いつけてやるからね。」


妹に睨まれて


「スマンスマン、勘弁してくれ。」


勉は苦笑いで謝る。


「別に相手の廣田くんが嫌なわけじゃないよ。というか、彼は確かに高校のクラスメイトだったけど、本当にほとんど話もしたことないから、悪い印象は全然ない代わりに、特にいい印象もないの。そんな相手と、いきなりお見合いして、結婚しろって言われても、全然気持ちが追い付いて来ないし、第一はっきり言って、老舗旅館の女将なんて窮屈そうな立場になれなんて、まっぴらごめんだよ。」


「それが本音か。」


ハンドルを握りながら、一瞬笑みを浮かべた勉は


「お前の気持ちはよくわかった。だが、このまま話が終わるかな?」


と疑問を呈する。


「えっ?」


「だって、今回の話は、ウチと鳳凰の関係もあるんだろうが、それ以前に親としては、お前を早く結婚させたいっていうのがあるんだよ。」


「確かにお父さんは、私が相手を自分で見つけるなら、それはそれで構わないって言ってたもんね。」


「そして、恐らく親父もおふくろもお前の話を疑ってると思うぜ。俺がすぐにおかしいと思ったんだ、親が気が付かないはずねぇよ。」


「おにい・・・。」


「だとしたら当然、じゃその男を連れて来て、紹介しろって話になるのが自然だとは思わないか?」


「そっか・・・。」


凪咲は、兄の言葉に頷かざるを得なかった。
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