ウソから出たマコト~ニセモノの愛から生まれたホンモノの恋~
そして17時40分頃から、確認事項や引継ぎ事項を共有する終礼が始まる。


「千晶。」


その冒頭、貴恵が厳しい口調で呼び掛けた。


「はい。」


「本当はその場で注意したかったんだけど、まだ来客もいらしたから・・・休憩後のあなたの態度はなに?」


「えっ?・・・。」


「いつも言ってるように、私たちは会社の顔なのよ。このブースにいる限りは、例え周囲にお客様がいなくても、美しい姿勢と笑顔はしっかりキープして、集中力を保っていなくてはならないのよ。」


「・・・。」


「昼食後で眠くなったり、夕方で疲れを感じてくる時間帯かもしれないけど、姿勢が崩れたり、逆に表情が真顔になってしまったなんてことは、私たち受付嬢にはあってはならないことなの。受付に来てから、まだ2ヶ月だと思ってるのかもしれないけど、もう2ヶ月なのよ。いつまでも総務担当だった頃のようなつもりでいてもらっては困るのよ。」


「すみません・・・。」


険しい表情で叱責して来る貴恵に、怒られている当人の千晶だけでなく、横の凪咲も思わず首をすくめる。


お説教が一段落して、改めてスタ-トした終礼が10分程で終了する頃には18時になり、定時を知らせるチャイムが館内に鳴り響く。それと同時に、待機していた警備員が正面入口を閉鎖する。


定時を迎えたAOYAMAだが、海外との取引や連絡を担当する部署があるから、社員の出入りは尚も続き、正面入口閉鎖後も、その横の非常出入口が生きていて、受付嬢の勤務終了後から深夜、早朝にかけては契約している警備会社の職員が受付ブースに詰めることになる。そして、彼らに必要事項を引き継ぐと、受付嬢の1日が終わりを告げる。


「お疲れ様でした、お先に失礼します。」


警備員たちにも笑顔で挨拶をし、凪咲たちはブースを離れる。ちなみによほどのアクシデントがない限り、受付嬢は定時上がりが普通。エレベ-タ-に乗り込むと、ようやく「見られている」という緊張感から解放される。そのまま更衣室に入った3人。他の2人とはロッカ-が離れている凪咲が、ひとり着換えていると


「じゃ、また明日。」


あっという間に帰り支度を整えた貴恵が


「お疲れ様でした。」


という凪咲の声に振り向きもせずに、更衣室を後にして行く。それはいつものことで、気にすることなく、凪咲が着替えを続けていると


「やれやれ、やっと解放された。」


と言いながら、千晶が近寄って来ると、大きく1つを伸びをした。
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