ウソから出たマコト~ニセモノの愛から生まれたホンモノの恋~
「一緒にいいかな?」


また、遠慮がちに聞いて来た大城に


「もちろん。」


凪咲は笑顔で答える、


「ありがとう。じゃ、失礼します。」


ホッとしたような笑顔を浮かべて、大城は凪咲の座った。


「今日はこっちなの?珍しいね。」


大城は研究職で本社ビルではなく、別館で勤務している。だから、同期生の中でも、あまり普段は接触がないのだ。


「うん、今日は菱見さんに会いに来たんだ。」


やはり、遠慮がちに、でも意外なことを大城は告げて来る。


「えっ?」


驚く凪咲に


「あのさ、その・・・彼氏役ってもう見つかった?」


勇気を振り絞ったように大城は尋ねる。これには、思わず周囲を見回してしまった凪咲は


「えっ、大城くん、何で知ってるの?」


と小さな声で聞く。


「う、うん。実はあの日、たまたま僕も同じ店で呑んでてさ。盗み聞きするつもりはなかったんだけど、聞こえちゃったんだよ。ごめん。」


そう言って、申し訳なさそうに、大城は頭を下げる。


「そっか・・・ま、私たち、結構ボリュームで喋ってたから。」


凪咲は笑顔で首を振った。


「それで、その罪滅ぼしってわけじゃないけど、もし僕でよければ、菱見さんの彼氏役に採用してもらえないかなって。」


「大城くん・・・。」


驚きの提案に、凪咲が目を白黒させると


「僕なんかじゃ、菱見さんの彼氏役には役不足なのは、充分わかってるけど、実はその・・・友人に菱見さんと似たような経験をして、苦労してた奴がいて・・・それを見て大変そうだなとは思ったんだけど、その時は何の力にもなれなくて。」


「そうだったんだ・・・。」


「だから、今度こそ出来たら役に立てればと思って。どうかな?」


そう言って、伺うように自分を見て来た大城を、凪咲はまじまじと見た。


眼鏡を掛け、頭髪はさっぱりと短め。紺色のスーツをパリッと着こなし、ネクタイも落ち着いた紺色。見るからに真面目そうな大城は、たまに同期で集まる時も、目立つことなく、静かにみんなの話を聞いていた。正直、あまり話をしたこともなかったが、その実直そうな人柄には、凪咲は好意を抱いていたし、何より、今の自分にとって、こんなありがたい申し出はなかった。だから、次の瞬間


「是非、お願いします。」


凪咲は頭を下げていた。
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