ウソから出たマコト~ニセモノの愛から生まれたホンモノの恋~
「その後、高校生になったお前は偶然にも鳳凰の若旦那である耕司くんと、同級生になった。お前たち同士はほとんど接触がなかったようだが、学校行事なんかで学校に行く度に、女将はお前を見ていたらしい。そして、やっぱりあの時の自分の目に狂いはなかったと確信したんだそうだ。」


ここでまた、直也が口を開くと


「私のどこに、女将になる資質が感じられたんだろう・・・?」


凪咲は釈然としないという口調で言う。


「それは俺にもよくわからん。その後、お前は東京の大学に進学し、そのままあっちで就職した。だからやっぱり縁がなかったと諦めておられたそうだが、耕司くんにも縁談が起こるような年齢になって、やっぱりお前のことが諦め切れなくて、改めてウチに話を持って来られたんだ。お話をいただいて、地元の誇る老舗旅館の女将に、お前が望まれるなんて、私も母さんも素直に光栄だと思った。」


「・・・。」


「まして、鳳凰さんには、親父の代からお世話になっている。以前、地元にスーパ-が進出して、同業者が何件も廃業に追い込まれ、親父も店を畳む決心をした時、反対した俺が、スーパ-との差別化を図る為に、あえて扱う肉の高品質化にシフトしようとしたのを、鳳凰さんは全面的に、支援してくれて、ウチは危機を乗り切ることが出来た。鳳凰さんに足を向けては寝られないんだよ。」


「お父さん・・・。」


「だから、鳳凰さんからの縁談を断るという選択肢が、俺たちの中になかったのは事実だ。それに、少なくとも俺たちの中では、この縁談がお前の為になるという確信もあったからな。だが、お前には、ちゃんと大切な人がいた。それを知った以上、鳳凰さんとの話はおしまいだ。しかしだ、大恩ある鳳凰さんからの縁談をお断りする以上、いい加減な理由は申し上げられない。娘には、既に将来を誓い合った相手がいるので、申し訳ございませんとお詫びするに当たって、その証をお見せせねばならんのだ。そんなの、お父さんたちの勝手な都合でしょって言われてしまうかもしれんが、これだけは凪咲にも大城さんにもわかってもらいたいんだ。」


そう言って、直也はふたりに頭を下げる。だが、そんな父の姿を見ても、凪咲は困惑した表情を浮かべるだけだった。しかし・・・


「わかりました。」


という大城の声が聞こえて来て、ハッと凪咲は横を振り向くと


「私はまだまだ未熟者ですが、凪咲さんと力を合わせて、幸せな家庭を築いていきたいと思います。どうか、よろしくお願いいたします。」


そう言って、大城が両親に深々と頭を下げている姿が目に入り


(えっ、これって・・・話が決まっちゃったってこと・・・?)


凪咲は茫然と、その光景を見つめるしかなかった。
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