ウソから出たマコト~ニセモノの愛から生まれたホンモノの恋~
「でも、私、裕くんと結婚しても、たぶんこっちに戻っては来られないよ。」


慌てて釘を刺すように言った凪咲に


「それは仕方がない。だいたい、考えてみれば地元の未来なんてことは、俺ごときなんかより、市長や議員のセンセイ方が考えることだ。俺は早く凪咲の花嫁姿と孫の顔を拝ませてもらえれば、それで充分だよ。ハハハ・・・。」


そう言って、直也は豪快に笑った。


こうしてご機嫌な両親に、大城が話を合わせ、その様子を凪咲と勉が困惑しながら眺めているうちに、時は流れて行った。陽もだいぶ落ちて来て、このまま一泊して行けと、引き止める直也に


「今日はご挨拶だけのつもりが、すっかり長居させていただいてしまい、大変申し訳ございませんでした。本日はこれで失礼させていただきます。」


大城が丁寧に頭を下げると


「裕さんにもご予定がおありでしょうし、無理にお引き留めしても、かえってご迷惑でしょうから。」


正美もとりなすように言って、この奇妙な時間は終わりを告げた。実家を辞し、再び勉の運転で、車が駅に向かって走り出した途端


「菱見さん、ごめん。勝手にご両親に話を合わせてしまって。」


大城が凪咲に頭を下げる。


「大城くん・・・仕方ないよ。正直、私も簡単に考え過ぎてた。彼氏の顔さえ見せれば、それで収まると思ってたから・・・。軽はずみなことをお願いしたばっかりに、大城くんにとんだ迷惑を掛けることになっちゃって・・・本当にごめんなさい。」


凪咲は首を振ると、自分も彼に頭を下げる。


「とにかくだ、これ、どうやって収拾つける気だ?凪咲。」


困惑の色を隠すことなく言う勉に


「うん・・・。」


答えが見つからず、言葉を紡げないでいる凪咲の顔を、大城は少し眺めていたが


「菱見さん。自分で話をややこしくして、こんなことを言うのもなんだけど、やっぱり、戻って、本当のことをご両親に申し上げた方がいいかも。」


と言い出す。が


「いや、少なくても今からはまずい。というか、今更本当のことを言ったら、もう見合いはもちろん、縁談自体を断れなくなるぞ、きっと。」


勉は首を振り


「それは困るよ。子供の頃の自分が何を言ったかは覚えてないけど、老舗旅館の女将なんて、とても私に務まるとは思えないし、それ以前に私、まだ結婚なんて全然考えられない。だいたい結婚するなら、ちゃんと自分が納得して決めた相手としたいというのは、誰もが当たり前に抱く感情じゃないでしょ?」


更に凪咲が訴えるように言うと


「だとしたら・・・もう方法は1つしかないよ、菱見さん。」


意を決したように大城が彼女の顔を見た。
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