ウソから出たマコト~ニセモノの愛から生まれたホンモノの恋~
「全く、ロッカ-も隣り合わせだから、本当に息が詰まっちゃう。」


うんざりした表情の千晶に


「今日は続きのご指導はなかったの?」


揶揄うように凪咲は尋ねる。


「今日は大丈夫でした。それさえなければ、私たちと雑談しようとか、終わった後、ご飯に行こうとか、そういう気はサラサラない人だから、その点は気が楽ですよね。」


そう言って、千晶は笑った。


着換えを終え、更衣室を出た2人は、エレベ-タ-でエントランスホールまで降り、先ほどまで自分たちが詰めていた受付ブースに立ち寄って、退勤手続きを済ませて、会社を出る。


「で、今日は私たちはどうですか?」


と誘いを掛けて来た千晶に


「ごめん、今日もちょっと・・・。」


申し訳なさそうに断りを入れる凪咲。


「わかりました。じゃまた、そのうちにお願いします。」


深追いはせず、笑顔でそう言った千晶に、笑顔を返した凪咲は、そのまま肩を並べて、最寄り駅を目指して歩き出し、改札口を通ると


「今日はお疲れ様でした。」


「お疲れ様でした。凪咲さん、明日、またよろしくお願いします。」


「うん、こちらこそ。」


挨拶を交わすと、それぞれのプラットホームに向かって歩き出した。


凪咲がホームに着くと、折よく急行電車が入って来る。華やかな都心から、揺られること約20分。降り立った自宅最寄り駅は、緑も多い閑静な住宅街にほど近い。その後、駅前のスーパ-に寄り、夕飯の食材を買い揃え、自宅に帰り着いたのは、会社を出てから50分ほど経った頃だった。


転職を機に引っ越して来た今の部屋は、女性には人気の2階の1K。バストイレ別で家賃は73,000円。通勤時間も周囲の住環境も十分満足している。カギを開け、中に入り、灯りを点け、手にしていたマイバックをテーブルの上に置くと、自らは椅子に腰掛け、まずはひと息。


(疲れたな・・・。)


傍から見れば、華やかイメ-ジの受付嬢。でもその仕事内容は立っている時間も長いし、ブースにいる時はなかなか気を抜くことも出来ないから、見掛けよりもなかなかハードなのだ。少しまったりしていた凪咲だったが、さすがに空腹を覚え、立ち上がる。そして着換えをし、手を洗って、キッチンに立った。
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