ウソから出たマコト~ニセモノの愛から生まれたホンモノの恋~
「菱見さん、僕と結婚しよう。」


リビングに戻った凪咲は、1週間前の大城との会話を思い起こしていた。


「大城くん・・・。」


唐突に何を言い出したのか、凪咲が理解出来ずに、大城の顔を見つめると


「今はまだ結婚なんて全然考えられないし、結婚するなら、ちゃんと自分が納得して決めた相手としたいって言ったよね?」


確認するように彼は言った。


「うん・・・。」


頷いた凪咲に


「だったら、今は僕と結婚するしかないよ。」


勢い込んだように大城は言う。


「ごめん。君の言ってること、全然理解出来ない・・・。」


話が全然繋がっておらず、困惑を隠せない凪咲に


「簡単な話だよ。君のお父さんは言っていた、『大恩ある鳳凰さんからの縁談をお断りする以上、いい加減な理由じゃダメで、ちゃんとした証をお見せしなくちゃならない』って。だったら、それをお見せすればいいんだよ。』


と大城は言う。


「偽装彼氏で足りないなら、その先を考えるしかない。そう言うことか?」


前の運転席から、勉が口を挟んで来るから


「その先って?」


と凪咲が尋ねると


「『偽装結婚』だよ。」


「おにい・・・。」


勉の答えに、凪咲は固まってしまう。


「でも、それしかないじゃないか?」


「大城くん・・・。」


「本当なら、籍でも入れてしまえば、一番いいんだろうけど、さすがにそう言うわけにもいかないから、とりあえず一緒に暮らそうよ。同棲すれば、それは立派な証になる。」


「それはそうだろうけど・・・。」


凪咲は困惑の色を深める。偽装だろうとなんだろうと、付き合ってもいない男女が1つ屋根の下で暮らすことに、彼女が躊躇い、抵抗を感じるのは当然のことだろう。


「ルームシェアをするんだと思ってもらえれば。1つ屋根の下だけど、基本的に生活は別々。必要以上の接触はしない。そのルールを徹底して、ひと月くらい一緒にいて、あとはなにか理由を付けて、同居を解消して別れればいい。菱見さん、実は僕、結婚に興味がないんだ。」


「えっ?」


「なんていうのかな、結婚というモノに夢を持てないというか、疑問を感じてるというか・・・そんな僕だからこそ、今の君にはふさわしいと思う。」


「大城くん・・・。」


大城の言葉に、なんとも言えないような表情になる凪咲だったが


「それにしても、いくらなんでもひと月は露骨すぎる。やるなら最低3ヵ月は必要だろう。」


と言い出した兄に


「おにいはこの話、乗り気なの?」


驚いて凪咲が問い質すと


「もちろん本当は大切な妹に、こんなことを勧めたくはないが、でも他に今の状況を打破する方法があるか?」


冷静な口調で、勉は答えた。
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