ウソから出たマコト~ニセモノの愛から生まれたホンモノの恋~
翌朝、目が覚めた凪咲は部屋を出ようとして、ハッと気が付いて、鏡に目をやった。


友人と暮らしてた頃は、正直気にもしていなかったが、ボサボサ頭のパジャマ姿で、大城と鉢合わせしてしまったら、と思い至ったのだ。


(面倒臭いな・・・。)


実は鉢合わせは多分しないだろうという思いも凪咲にはある。建物は違うが、2人は同じ場所に出勤するのだ。だとすれば、身仕度に時間が掛かる自分の方が当然早起きのはずだ。と言って、恥ずかしい思いをするのも当然嫌だ。結局髪を整え、部屋着のトレーナーに着替えて、部屋を出ると果たして・・・


「菱見さん、おはよう。」


キッチンから明るい大城の声は聞こえて来る。


「お、おはよう、大城くん。早いね。」


着換えておいてよかったと内心胸をなでおろしながら、凪咲が答えると


「いやあ、なんか新しい部屋で緊張してたのか、早く目が覚めちゃてさ。」


と照れ臭そうに答えた大城は


「とりあえず、顔洗って来なよ。朝飯、もうすぐ出来るから。」


と意外なことを言い出す。


「えっ、作ってくれたの?私の分まで。」


驚く凪咲に


「早く目が覚めちゃったし、それに1人分作るのも2人分作るのも、大して手間は変わらないから。菱見さんのお口に合うかどうかわからないけど、よかったらどうぞ。」


笑いかけながら、裕は言う。


「う、うん、ありがとう。」


思わぬ展開に、動揺を隠せないまま、洗面所に向かった凪咲だったが


(でも、材料は・・・?)


ふと疑問を抱く。朝にあまり強くなく、従って慌ただしい朝を迎えることの多い凪咲は、朝食を自分で用意するとしてもせいぜいトーストにコーヒーが関の山。今朝はあまり食材は用意してなかったはずだし、またあったとしても、勝手に使うことはないだろう。


(だとしたら、大城くんは最初から、私の分も含めた2人分の食材を、昨日の内に用意してくれたんだ・・・。)


と思い至って、ハッとなった。慌てて、洗面所に駆け込み、洗顔と歯磨きを終え、凪咲がダイニングに戻ると、テーブルにはハムエッグ、サラダ、スープにトースト、更にはヨーグルトが並べられていた。


「菱見さんが和食派だったら、ごめん。」


「そんなことないし、恥ずかしながら、仕事の日に朝食を自分で作ることがほとんどないし、正直抜いちゃうことも少なくないから、ありがたいです。」


「ダメだよ、それは。朝食抜きは健康に悪いのは当たり前だけど、特にタンパク質を摂らないと、美容にも良くないよ。」


裕は窘めるような口調で言う。
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