ウソから出たマコト~ニセモノの愛から生まれたホンモノの恋~
転職活動がうまく行かず、やむなく登録した派遣会社から、受付嬢の仕事を紹介された時は、凪咲は正直驚いた。派遣社員に求められるものは「即戦力」というのが、彼女のイメ-ジで、前職では営業事務を担当していた凪咲にとっては、受付嬢の仕事は、当然全く門外漢だったからだ。


「受付嬢に求められるスキルは、『コミュニケーション能力』『接遇』『判断力』『語学力』『ホスピタリティ精神』『PC』、ざっとこんなところかしらね。」


担当のコーディネ-タ-がズラスラと項目を並べて来た時、凪咲は困惑した。


(そんなにいくつもスキルが必要なの・・・?)


「あの、すみません。勉強不足でお恥ずかしいのですが、『接遇』ってなんのことでしょうか?」


恐る恐る尋ねた凪咲に


「定義としては、『お客さまを理解し、適切に迎える応対』。単にお客さまに接する、応対する『接客』よりワンランク上の、相手の状況や気持ちをくみ取った特別な応対のことですね。」


笑顔で答えてくるコ-ディネ-タ-の顔を見ながら


「はぁ・・・。」


と曖昧な返事をした凪咲は


(ホスピタリィは「 相手への思いやりの言動、丁寧なおもてなし、歓待の気持ち」だったっけ?なんか前の会社の研修で習った気がする・・・。)


などと考えていたが、やがて


「あの私、正直語学はダメですし、受付嬢の経験もありませんから・・・。」


と断りの言葉を口にした。すると


「受付嬢さんって、ある程度社会人経験をしてからの転職組が圧倒的に多いんです。社会人経験がある人の方が敬語などもしっかり使えるので、即戦力になる。企業様からはそう言う声を、よく聞きます。」


とコーディネ-タ-は言う。


「そうなんですか?」


「はい。それに今回、ご紹介しようとしている企業様からは、語学、まぁ主に英語ということになりますけど、そのスキルが必須とは伺っていません。その点も安心して下さい。まぁ私がいきなりスキルを並べたてたので、菱見さんに構えさせてしまったかもしれませんが、でも冷静に考えてみて、営業事務をなさっていた菱見さんにとっては、どれもこれまで、必要だったスキルだったとは思いませんか?」


穏やかな笑みを浮かべたまま、コーディネ-タ-は凪咲を見つめた。
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