ウソから出たマコト~ニセモノの愛から生まれたホンモノの恋~
我ながら、ちょっと苦しいかなとは思ったが、強めの口調で言ったせいか、あるいは、いくら休憩中とは言え、会社であんまり騒ぎ立てては、さすがにまずいという自制心が働いたのか


「なんか釈然としないけどなぁ・・・。」


などとブツブツ言いながらも、とりあえず彼女たちが静かになったのを見て


(嘘はついたけど、彼氏が出来たわけじゃないのは事実だし、とにかくみんなに彼とのことがバレるわけにはいかないから・・・。)


凪咲は、ホッと胸をなで下ろした。


それでも、その日の夜は、さすがに同僚たちの誘いを断ることが出来ず。改めて追及を受けた凪咲だったが、なんとかそれをかわし切り、帰宅すると時計の針はすでに11時を過ぎていた。


ドアを開けて、中に入ると、リビングは既に暗かった。灯りを点け、椅子に腰掛けた凪咲は


(それにしても、あんな騒ぎになるなんて、正直参ったな・・。)


今日の夕飯は、凪咲が作って、ふたりで家で食べる約束になっていたのだが、キャンセルにせざるを得なくなってしまい、周囲に気付かれないように、その旨をLINEをすると


『了解です。僕のことは気にしないで、楽しんで来て下さい。明日は早いんで、たぶん凪咲が帰って来る頃には寝ちゃってると思うんで、よろしく。』


こんな返信が来た。


(裕、今日はごめんね・・・。)


大城の部屋のドアに視線を送り、そんなことを思いながら、凪咲は思わずため息を吐いた。


必要以上にお互いの生活に干渉しない、その約束でスタートしたはずの偽装同居。だが、時が経つにつれ、少しずつふたりの距離は近づいて行った。


朝が弱い凪咲の為に、大城が朝食を用意し、時に弁当も作る。


その代わりと言うわけではないが、夕食を凪咲が作り、食事を共にする機会が増え、食材や日用品の買い出しを頼んだり、頼まれたり、また会社帰りに一緒に買い物をする機会も増えた。


それだけではなく、夕飯はお互い、別に済ませた時も、帰宅した後でリビングでお茶を飲みながら、今日あった出来事を話したり、休日には一緒に出掛けたり、家で一緒にネットで映画を楽しんだり・・・。そして、気が付けば、お互いがお互いを名前呼びするまでになっていた。
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