ウソから出たマコト~ニセモノの愛から生まれたホンモノの恋~
いや。気が付けば、ではない。きっかけはあった。ひと月ほど前、凪咲の両親が上京して来た。商店街の慰安旅行のついでに、顔を見て帰りたいからと言うのだが、ふたりの様子を見に来たのは明らかだった。


住まいを訪ねたいとのことだったが、住んでいるのがシェアハウスであるのがバレると、不審を抱かれかねない。なんとか、外で会うことで押し切ったのだが、その際にはやはり名前で呼び合わないとおかしいよねという話になり


「少し練習するか?」


「そうだね。」


「じゃ、行くよ。」


と言って、改めて顔を見合わせたふたり。1つ深呼吸した大城が


「凪咲。」


と呼び掛けると


「ゆ、裕・・・。」


呼び返した凪咲は、次の瞬間、顔を真っ赤にして俯いてしまう。


「ウハ、これ結構照れ臭いな。」


思わず大声を出した大城に


「そうだね。」


と頷いた凪咲は


「でも、嫌じゃない、かな・・・。」


そう言って、上目遣いに彼を見た。


(そ、それは反則だよ・・・。)


そんな凪咲の態度に、今度は大城が顔を赤らめる番だった・・・。


こうして一緒に過ごす時間が、いつの間にか、心地良くなっていたふたり。でも・・・


(私たちが一緒に暮らし始めた理由は、私が望まない縁談を白紙にする為、その一つしかない。裕はそれに協力してくれてるだけ、だから、その目的が達成されれば、後はほとぼりが覚めた段階で、同居を解消するのは、当然のこと。「一緒に住んでみたけど、やっぱりしっくりこなかった、私やっぱり結婚に向かないみたい」とでも言えば、呆れられはするかもしれないけど、廣田くんとの縁談が蒸し返されることはないだろうし、ね・・・。)


凪咲は改めて、思いを馳せる。


(その期間として、まぁ3か月は必要じゃないか。おにいの意見もあって、そのつもりで始めた同棲生活だった。そして、まもなくその約束の期間が来る・・・来てしまう・・・。)


そう思った途端、凪咲の胸に痛みが走る。


(この痛みは何?なんでこんなに胸が痛いの・・・?)


凪咲は、思わず自問する。理由が自分でもわからず、しばし混乱していた凪咲だったが、やがて1つの結論に達した。


(そっか。私たち、ちょっと仲良くなり過ぎたんだね・・・。)


そのことに気付いた凪咲は、フッとため息を吐いた。
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