ウソから出たマコト~ニセモノの愛から生まれたホンモノの恋~
「2か月でも、なんなら後、1か月でもいいから。」


そんな大城の言葉で始まった同居延長戦は、もう3か月目が半ば過ぎようとしていた。つまり、ふたりが一緒に住み始めてから、間もなく半年になる。


『新しいお部屋、見つかった?』
『本気で探してる?』


あの時の言葉を、大城が「さすがに、そろそろ終わりにしないとね」という自分の意思表示と受け取ったのは、むしろ当然だろう。


だが、あの問いを発した凪咲の真意は、全く正反対だった。今の自分にとって、この大城との生活にピリオドを打たなければならない理由は何もなくなっていた。そのくらい、彼との時間は、凪咲には心地良いものになっていたのだ。つまり・・・


(私は裕が好きなんだ、好きになったんだ。だからもう、離れたくない・・・。)


凪咲は今、はっきりとその自分の気持ちを自覚した。それだけに、来るべき、別離の日に備えて、改めて距離を置こうとしている大城の態度に動揺していた。


(だったら、なんであの時、「もう引っ越しなんかしなくていいじゃん。このまま、これからも一緒に住もうよ」って、言わなかったんだろう・・・。)


そう考えると、凪咲の胸は途端に痛みだす。


少なくとも、自分は大城に嫌われてはいないだろう。偽彼氏や偽装同居なんていうややこしいことを引き受けてくれてるのだから。


それに、3か月の約束だったはずの同居が延長されることになったのは、明らかに彼の主導だった。自らの新居探しが進んでいないというのが、理由のひとつだったが、しかしその後、彼がそれを積極的に行っているようには見えなかった。


(だとしたら、ひょっとしたら裕も、私と同じ思いを抱いてくれてるのかもしれない。)


そんな期待が膨らんで来る。だが、かつて彼は言った。


「僕は結婚に興味がない。」


と。それが彼の中で「恋愛に興味がない」「異性に興味がない」と同義なのかはわからない。この手の話をすることを、恐らくお互いに避けて来たからだ。


だが現実として、ひとつ屋根の下で暮らし始めてから、裕が自分に何らかのモーションを掛けて来る素振りは全くなかった。確かに、同居を始めるにあたって、裕は自分に手を出すようなことは絶対にしないと誓ってくれた。シャアハウスだから、プライベートをしっかり分けることが出来る環境でもある。でも親密さが増して行くうちに、リビングのソファーに隣り合って座って、映画を見たり、ゲームをしたり、語り合ったのは、1度や2度ではない。


律儀なのか、チキンなのか、はたまた自分に興味がないだけなのか・・・。


(だいたい彼がこの生活を終わらせたくないと思ってたとしても、それは単に自分に何か都合がいいことがあるからかもしれない・・・。)


そう思い至ると、凪咲の気持ちは重くなってしまう。
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