ウソから出たマコト~ニセモノの愛から生まれたホンモノの恋~
(でも、あんなに美味しそうに食べてくれれば、やっぱり嬉しいよね。作り甲斐もあるし、それに・・・。)


ふたりで囲む食卓でのひとときが、いつの間にか大好きになっていたから。まして、今日はそんな時間がこれからもずっと続くことをキチンと約束する日になるかもしれないのだ。


足取りも軽く、洗面所に向かった凪咲は


「えっ?」


そこの光景が今朝と変わっていることに気付いて思わず、足を止めた。確かに朝は2本あったはずの歯ブラシが自分の物しかない。突っ張り棒に掛かっていたバスタオルも1枚になっている。


(どういうこと・・・。)


しばし茫然とした凪咲は、すぐに慌てて、大城の部屋に向かう。夢中でドアノブに手を掛けると、ドアはあっさりと開く。カギは掛かっていない。電気を点け、中を見渡すと、そこは文字通りのもぬけの殻。今朝までは間違いなくこの部屋に存在していたはずの彼の痕跡の全てが消えてしまっていた。


「ウソ・・・でしょ?」


茫然とする凪咲の目に、1枚の便箋が壁に貼られているのが入って来て、慌ててそれを手に取る。


『凪咲、予定より伸びてしまったけど、そろそろタイムオーバーです。僕の突拍子もない提案を受け入れてくれて、本当にどうもありがとう。これで僕は消えます、この半年がこれからの君の人生にとって、有意義なものになることを祈っています。お元気で、さようなら。』


彼らしい几帳面な文字で綴られた文章を一読した凪咲は、次の瞬間、その紙をギュッと握り潰していた。


「何よ、これ・・・。」


怒りに満ちた表情になった凪咲は、すぐにリビングに戻ると、カバンからスマホを取り出し、大城の番号をタップする。しかし、繋がることはなく、送ったLINEも既読になることはなかった。


怒りと悲しみが入り交じり、またしても悶々とした夜を過ごした凪咲が、翌日、早々に大城の研究室に乗り込むと、居合わせた彼の上司から意外な言葉を聞かされた。


「大城は、昨日付で退職したよ。」


「冗談は止めて下さい。」


さすがにそんなことがあるわけはない、凪咲が思わず失笑すると


「いや、本当だよ。もう前から決まってたんだ。ただ、自分と同じ研究室のメンバー以外には誰にも知らせないで欲しいと、本人が強く希望してね。」


「そんなバカなことが認められるんですか?」


その言葉に、凪咲は思わず、反撥の口調になる。
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