ウソから出たマコト~ニセモノの愛から生まれたホンモノの恋~
「まぁ、君の言う通りだと、俺も思うんだが、業務の引き継ぎさえ、問題がなければ、後は本人の希望通りにしてやれと上も言うんでね。それにしてもアイツ、君たち同期にも本当に何にも言わないまま、辞めたのか。優秀で真面目な奴ではあったが、何というか不思議な男だったよ。」


呆れ顔で、そう言った上司に、ひとつ頭を下げて、部屋を出た凪咲だったが、その内心は呆然自失と言ってよかった。


(どういうつもりだったの?裕。君は、私の前から姿を消すつもりだったのに、一昨日の夜、あんなことをしたの?もし、私が君をあのまま、受け入れたら、どうするつもりだったのよ!)


大声でそう詰め寄りたいが、もはやそれも叶わない。思えば、大城は自分のことを、ほとんど話してくれなかったことに、凪咲は今更ながら気付いた。


つまり、大城が会社を去り、携帯も不通になってしまった今、凪咲にはもう彼の行方を追う術はなく、連絡を取ることも出来ないのだ。


(結局、彼は何がしたかったの・・・?)


それは、もはや永遠の謎になってしまったと言っても、過言ではなかった。


処理し切れない、様々な感情が身体の中に渦巻き、思わず唇を噛み締めた凪咲は、やがて会社を飛び出し、社員たちの出勤の流れに逆らうように足を速めて歩く。そして駅に着くと


(ごめんなさい、今日はいくらなんでも、ちょっと無理・・・。)


なんとか、体調不良で休ませて欲しい旨を上司に連絡した凪咲は、そのまま、目についた列車に飛び乗っていた。


そして、その後、どこでどう過ごしたのか、凪咲には全く記憶がない。気が付けば、いつの間にか日は暮れており、彼女は家のリビングのソファ-に茫然と座っていた。再びひとりになったシェアル-ムを、凪咲は改めて見回した。


(ひょっとしたら私、夢でも見てたのかな・・・?)


ふとそんな思いがもたげてくる。確かに大城の痕跡は、もうこの家にはない。でも、彼と一緒に過ごした時間は夢でも幻でもない。ハッと我に返った凪咲はスマホを取り出した。彼との時間が終わった以上、やらなければならない事があることに気が付いたのだ。


すると、タイミングよく、今掛けようとしていた母親から電話が掛かって来た。
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