ウソから出たマコト~ニセモノの愛から生まれたホンモノの恋~
「そのことについては、凪咲に謝らないといけないな。」


裕は言い出す。


「俺が大塚ケミカルズに入った・・・いや、入れられたのは、よその釜の飯を食って、社会勉強して来いっていう親の意向。ウチの親父と大塚の社長が個人的に親しかったから、3年間という約束で修行に出されたんだ。」


「3年?」


「そうだ。期間限定だったし、AOYAMAの息子だと知られて、ちやほやされたり、逆に妙に目の敵にされても困るんで、俺は素性を隠すことにした。万一、俺を知っている人間がいないとも限らなかったんで、姓は母方の大城を名乗り、性格も雰囲気も意識して変えて・・・だから、状況を知っていたのは社長と人事部のトップだけ。たぶん、直属の上司も知らなかったはずだ。」


「・・・。」


「ということで、正直に言う。あの時の俺、大城裕は、猫を被ってたんだ。本当の俺、新城裕は、凪咲が昼間見た感じの男なんだ。幻滅させたら、ごめんな。」


そう言って、頭を下げた裕に


「別に幻滅なんかしませんし、事情を聞けば、そうだったんだと思うだけです。」


淡々と答えた凪咲は


「お話はそれだけですか?」


と逆に聞き返した。


「えっ?」


「特にこれ以上、お話がなければ、私、明日も早いんで、これで失礼します。」


そう言って、歩き出そうとする凪咲を


「ちょっと待ってくれ、聞きたいことがあるんだ。」


裕は慌てて、呼び止める。


「なんですか?」


振り向いた凪咲に


「それにしても、随分と狭い部屋に住んでるんだな?」


と思わず口走ってしまった裕は、すぐにしまったと後悔するが


「ひとりになって、いつまでもあのシェアル-ムにはいられないでしょ?まして、あの頃と違って、今の私は派遣社員なんだから、分相応の1人暮らしの部屋に住んでるつもりです。」


凪咲は、特に感情を現すことなく答える。


「ごめん、失礼なこと言っちゃって。今のは謝るよ。でも俺が聞きたかったのは、優秀な社員だったはずの凪咲が、なんで前の会社辞めて、派遣で受付嬢なんかやってるのかってことだよ?」


「そんなこと、あなたには関係ないでしょ?」


「いや、それはそうかもしれないけど・・・。実は帰国が決まった時に、会社の現状を少し調べたら、凪咲が受付嬢をやってるって知って、本当に驚いたんだ。」
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