ウソから出たマコト~ニセモノの愛から生まれたホンモノの恋~
「おはようございます。」


翌朝。いつものようにブースに立ち、凪咲は出勤して来る社員たちに、にこやかに挨拶をしている。昨夜の裕との時間は、全く予想もしていなかったものだったが、話を出来たことは有意義だと思っていた。もちろん全てが納得出来たわけではないが、もう吹っ切って、前を向いて行こう、行くべきだ、そう思えた。だから、裕が姿を現しても


「おはようございます、新城さん。」


自然な笑顔で、頭を下げた。ところが


「おはよう、凪咲。」


「えっ?」


「昨日は夜遅くまで、ありがとうな。」


(ちょ、ちょっと、何言い出してるの、この人・・・。)


それに対して、裕が自分を名前呼びして来ただけではなく、何やら意味深なことを口走って、ニヤリと笑い掛けて来るから、凪咲はすっかり動揺し、隣の貴恵や千晶、居合わせた社員たちも、驚いたように、2人に視線を向けて来た。そんな中で


「じゃ、おふたりもよろしくお願いします。」


ひとり、平然としている裕は、貴恵や千晶にそう挨拶すると、そのままブースを離れて行く。


「カッコいい、爽やか・・・。」


その後ろ姿を、千晶は目をハートにして追い掛けていたが、彼がエレベ-タ-の中に姿を消すと


「凪咲さん、昨日ジュニアとデートだったんですか?『凪咲』なんて、呼び捨てにされて、そんな仲良しだったなんて、昨日は全然教えてくれなかったじゃないですか?」


途端に好奇心丸出しで聞いて来る。


「いや、それは・・・。」


答えに窮する凪咲を横目に


「千晶、仕事中だよ。菱見さんもしっかりして。」


貴恵が、釘を刺すようにピシリとした口調で2人に言う。その声に、慌てて前を向いた凪咲が前を向くと、まもなく外来者受付がスタ-トする。次々と現れる来訪者に、何事もなかったように笑顔で応対している凪咲だったが


(なにを考えてるのよ、裕は。わざとあんな言い方して・・・。)


爆弾を投下して、言い逃げした裕が恨めしかった。


果たして、正午のチャイムが鳴り、昼休みタイムとなり、貴恵がブースを離れると


「で、凪咲さん。ちゃんと説明して下さいますよね?」


待ってましたとばかりに、千晶が興味津々という表情を隠し切れずに尋ねて来る。
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