ウソから出たマコト~ニセモノの愛から生まれたホンモノの恋~
やがて、貴恵が戻って来て、入れ替わりに昼食休憩に入った凪咲だったが、普段は楽しみなはずのその時間が、なんとも気重に感じた。裕と鉢合わせして、また何かと絡まれても嫌だし、そうじゃなくても、いろいろ詮索されたりしたら面倒だなと思ったが、裕の姿は見えず、また普段からほとんど周囲と交流して来なかったことが、幸いしてか、遠巻きにヒソヒソ話のネタにされているのは感じられても、直接何か言って来る人はおらず、凪咲は胸を撫で下ろした。


そそくさと食堂を離れ、屋上でいろんな考え事をしながら時間を過ごした凪咲が、ブースに戻ると


「じゃ、行って来ます。」


千晶が休憩に出て行った。すると


「菱見さん。」


「はい。」


「忙しくなる前に少し話を聞かせてもらってもいいかな?」


そう言って、貴恵が凪咲を見た。


「私と新城さんとの関係のことなら、さっき千晶ちゃんに正直なところはお話ししましたけど。」


「うん、それは聞いた。ただの同期生にしては名前呼びなんておかしいんじゃないって思うけど、まぁそれはとりあえず、私にとってはどうでもいいの。今、私が知りたいのは、新城裕という男の人となり。」


「人となり、ですか?」


「そう。あくまでまだ噂だけど、あの男は、私が入社以来誇りをもって勤めて来た部署を潰そうとしているらしい。だとすれば、私にとっては憎き敵。その敵の正体を知りたいんだよ。」


真剣な表情で、そう告げて来た貴恵の気迫に、一瞬息を呑んだ凪咲だが


「ごめんなさい。私、新城裕という人については、何も知らないんです。」


と申し訳なさそうに答える。


「えっ、でも・・・。」


「確かに私たちは、以前在籍していた会社で同期でした。私の知ってる当時の彼は、職務に忠実で、真面目で誠実な人でした。そんな彼に対して、私は同期として信頼感を抱いていたし、好感も持ってました。でも昨日、私に彼は当時はAOYAMAの御曹司であることがばれないように猫を被っていたと、はっきり言ったんです。」


「猫被ってた・・・。」


「確かに再会して、昨日から今日に掛けて、私が見聞きした彼の言動には、正直違和感を感じてます。だから、私は新城さんという人のことは、何も知らないと申し上げたんです。」


凪咲のあまりにも意外な答えに、貴恵は唖然としていたが


「でも、彼はなんでそのことを、わざわざ菱見さんの家に訪ねて行ってまで語ったのかな?」


素朴な疑問をぶつける。


「それは・・・私にはわかりません。」


と答えた凪咲の表情には、陰りがあった。


(やっぱり、菱見さんとジュニアの間には、何か曰くがある・・・。)


貴恵は察したが、それを改めて尋ねることは、さすがにこの場では憚られた。


「わかった、ありがとう。さ、集中しよう。」


「はい。」


2人は前を向いた。
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