ウソから出たマコト~ニセモノの愛から生まれたホンモノの恋~
その後、終礼、警備員への引継ぎを終えた3人が、ブースを離れて歩き出すと、バタバタとした足音が近付いて来たかと思うと


「あっ、ちょっと待ってくれよ。」


呼び止める声がした。


「早川さん。」


千晶が呼び掛けると、3人の前に現れた早川は、ぜぇぜぇと肩で息をしながら


「君たちが帰る前にと思って、階段駆け下りて来たんだ。あ~、間に合ってよかったぁ。」


と言った後、懸命に息を整えている。


「どうか、なさいましたか?」


凪咲が尋ねると


「いや。実は、ジュニアが今度、若手を中心とした社員たちと懇親会を開きたいって言っててさ。」


荒い息の合間に、早川はこんなことを言い出した。


「懇親会、ですか?」


「ご存知の通り、ジュニアはずっと海外にいて、本社の中に知己がほとんどいないことを、気にしてらっしゃるんだ。帰国してからの慌ただしさもだいぶ落ち着いて来たから、この機会に、是非、みんなと親睦を深めたいって、おっしゃってるんだよ。」


「そうなんですか。」


「そんな堅苦しいものではなく、無礼講の呑み会だと思ってくれればいいんだ。それで君たちもどうかなと思って。」


「冗談じゃない。」
「是非、よろしくお願いします。」


全く相反した答えが同時に上がる。言うまでもなく、前者が貴恵、後者が千晶からだ。


「あの男との呑み会なんて、真っ平ごめんよ。」


「お、おい桜内。いくらなんでも、そんな言い方しなくても・・・。」


窘めるような早川に


「そんなのは、あんたみたいな腰巾着だけでやればいいじゃない。」


貴恵は言い放つ。


「なに!」


さすがに早川は色をなすが


「そういうことで。あっ、もちろん部下たちに私の考えを押し付けるつもりはないから。あなたたちはご自由に。じゃ、お先に。」


貴恵は相手にせず、そのまま歩き去って行ってしまった。


「あの女、本当に頭くんな。」


その後ろ姿を睨みつけるように見ていた早川は、気を取り直すと


「菱見さんは来てくれるよな。」


凪咲に視線を移したが


「すみません、私も遠慮しときます。」


と首を振る。


「えっ?だって、菱見さんはジュニアとは昔馴染みなんでしょ?それなのに、来ないなんて、ジュニアがガッカリしちゃうよ。」


「でも、私は派遣ですから、そういう席はやっぱり・・・ごめんなさい。」


そう言って、早川に頭を下げる凪咲。
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