ウソから出たマコト~ニセモノの愛から生まれたホンモノの恋~
その後はとんとん拍子に話が進んで行き、AOYAMAの受付嬢になった凪咲。前職とは全く違う仕事で、やはり当初は随分戸惑い、なかなか慣れずに苦労もした。が、貴恵や当時のチーフの指導もあって、気が付けば派遣社員ではあるが、今や後輩の千晶をフォロ-しなければならない立場になった。


受付嬢の朝は早い。定時スタ-トの30分前には、所定の位置に着く。まず、警備員からの引継ぎを受け、ブース周りの清掃や準備、更には朝礼とやることが目白押しだからだ。


「おはようございます、それでは朝礼を始めたいと思います。」


と貴恵が口火を切って始まった朝礼。本日の予定ややるべき業務を全員で共有して行き


「それでは、本日もよろしくお願いします。」


という貴恵の締めの言葉と共に、3人はブース周りの最終チェックに入る。そうこうしている間にも、社員が続々と出勤して来るから、彼らへの挨拶も当然怠らない。


そして彼女たちが所定の位置に着くと、9時。


「おはようございます。本日はご来社、ありがとうございます。」


外来者、外線の受付がスタ-トし


「かしこまりました、少々お待ち下さいませ。」


新たな1日が始まった。


来客を出迎え、外出する社員を見送り、掛かって来る外線や内線に対応し、必要に応じてパソコンの画面に向かい合う。場合によっては、ブースを離れ、来客を社内まで案内する場合もあるし、その後のお茶出しを担当することもある。凪咲はお茶出しが苦手で、いつもこぼさないか、冷や冷やしながら


「どうぞ。」


内心の動揺を懸命に抑え、すました顔で来客の前にお茶を出すのだが、時に手が震えてしまうこともあり


「菱見さん、随分緊張してたね。」


あとで、居合わせた社員から冷やかされることも。


戻って見ると、ブ-スに来客が列をなして、慌てることもあるが、今は平和な時が流れていて、残っている2人が手持無沙汰に座っている。


「戻りました。」


と挨拶すると、凪咲もゆったりと席に着く。するとまたエレベ-タ-の扉が開き


「Thank you for your time today.(本日はご足労いただきましてありがとうございました。)」


という綺麗な発音の英語が凪咲の耳に入って来た。
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