ウソから出たマコト~ニセモノの愛から生まれたホンモノの恋~
「またそれ?なんかつれないよなぁ、菱見さんは。派遣とか正社員とかは、こういう時は関係ないじゃん。同じ会社の仲間なんだから。」


早川は食い下がるが、凪咲の返答は変わらない。無理強いは出来ないと諦めて、1つため息をついた早川は


「じゃ、新垣はOKってことでいいんだよな。」


「はい。」


「じゃ、追って日時と場所は連絡するよ。」


千晶にそう言い残すと、急ぎ足で離れて行った。


「これから、いろんな部署を回るんですかね?早川さん。」


「たぶんね。」


「大変ですね、腰巾着も。」


「千晶ちゃん・・・。」


「さ、私たちも帰りましょ。」


そう言って、千晶はいたずらっぽく笑った。


着替えを終え、会社を出た2人は駅に向かって歩き出した。


「凪咲さん。」


「はい。」


「本当によかったんですか?ジュニアのお誘いをお断りしちゃって?」


「どういう意味?」


「さっきの早川さんの様子じゃ、真っ先に私たちの所に来たみたいでしたよ。それは、凪咲さんを絶対に誘えって、ジュニアに言われたからじゃないですか?」


「まさか。私たちが残業なしで帰ることが多いから、まず私たちに言いに来ただけだよ。」


勘繰る千晶の言葉をあっさり否定する凪咲。


「それにしても、思わぬビッグチャンスですよね。」


「えっ?」


「まさか、ジュニアとお近づきになるチャンスが訪れるとはなぁ。」


「千晶ちゃん。」


「私、頑張っちゃおう。」


張り切る千晶に


「でも千晶ちゃん。確か、この前の合コンで、いい人に巡り会えたって言ってなかったっけ?」


驚いたように凪咲は尋ねるが


「別に、まだ正式に付き合ってるわけではないですし。それに、せっかく自分の会社の御曹司とお近づきになれるかもしれないのに、それを見逃す手はないですよね?」


あっけらかんと答えて笑う千晶に、凪咲が二の句が継げなくなっていると


「ということで、私がもしジュニアとお付き合いすることになっても、何ら問題はありませんよね?」


千晶は言う。


「あんまり好ましいこととは思えないけど、まぁそれはそれで仕方ないよね・・・。」


「そういうことを言ってるんじゃありません。」


「えっ?」


「私がジュニアを狙っても、凪咲さんは差し支えないんですか?」


そう言って、自分の顔を真っ直ぐに見つめた千晶の視線に、一瞬息を呑んだような様子を見せた凪咲だったが


「もちろん。逆になんで、私にそんなことを聞くの?」


と逆に問い返す。その表情を少し見つめていた千晶だったが


「わかりました。じゃ、遠慮なく行かせていただきます。」


凪咲に告げると、ニコリと微笑んだ。
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