ウソから出たマコト~ニセモノの愛から生まれたホンモノの恋~
それから3週間ほどが過ぎた。


「よう、おはよう。千晶ちゃん。」


朝、エントランスに颯爽と姿を現した裕は、ご機嫌な様子で千晶に声を掛ける。


「あっ、おはようございます。」


千晶が満面の笑みで、挨拶を返すと


「今日もいい笑顔だ。その笑顔で、今日もまた1日頑張れる。」


そう言って、裕は笑う。


「そう言っていただくと、励みになります。」


はにかむ千晶の横で、そのやり取りを貴恵と凪咲が冷ややかに見ている。その視線の気が付いた裕は、しかし全く悪びれる様子もなく


「おふたりも千晶ちゃんを見習って、キープスマイルで今日もお願いしますよ。なんと言っても、笑顔は受付嬢の命、ですからね。」


そう言い残して、ブースを離れると


「おはようございま~す、ジュニア。」


「おぅ、おはよう。今日も可愛いなぁ、美樹(みき)ちゃん。」


「またぁ。相変わらず口ばっかり、お上手なんだから、ジュニアは。」


「そんなことないさ、俺は本当のことしか言わない正直者なんだ。」


たちまち何人もの女子社員が、まるで磁石に吸い寄せられる砂金のごとく群がって行き、そんな彼女たちとワイワイやりながら、裕はエレベ-タ-の中に消えて行った。


その様子を、悲し気な表情で見送っていた凪咲に


「菱見さん。」


貴恵が声を掛ける。


「は、はい。」


その声にハッと振り向いた凪咲に


「始まるよ、集中。」


貴恵が短く言う。


「はい。」


頷いた凪咲は、気を取り直して、前を向いた。


午前9時を迎えると、待ちかねたように何人もの来客が、ブースに現れ、凪咲たち受付嬢の慌ただしい1日が始まった。


「いらっしゃいませ。ご用件を承ります。」


引きも切らない来客の数は、AOYAMAという企業が今持っているパワ-、影響力のバロメ-タ-。笑顔で相手と向かい合いながら、改めて凪咲は感じている。


(凄い会社だよね・・・。)


凪咲が今更、そんなことを考えてしまっているのには、理由がある。


正午になり、昼休み開始を告げるチャイムが本社内に鳴り響くと、ほぼ同時に、来客の波がいったん収まる。いつものように貴恵がまず、休憩に入って、少しすると


「ジュニア、早く行きましょうよ。」


「わかってる。そんなに手を引っ張らなくても大丈夫だよ。」


けたたましい集団が現れ、凪咲は思わず眉を顰める。
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