ウソから出たマコト~ニセモノの愛から生まれたホンモノの恋~
「あっ、今日もこの時間にお昼なんですか?たまには時間ずらして、私もランチ、連れてってくださいよ。」


数人の女子社員を引き連れて現れた裕に、千晶が頬を膨らませていると


「わりぃ、わりぃ。近々必ずな。」


そう言って、彼女に手を合わせるポーズをして、通り過ぎて行く裕。


「それにしても、凄い人気ですね、ジュニアは。ライバル多すぎ・・・。」


ため息混じりの千晶の横で、凪咲は何も言わずに、ただ一行を見つめている。


それは、もはや日常茶飯事の光景・・・いや昼休みだけではない。定時終了、18時のチャイムが鳴るのと、ほぼ同時に、裕はもう、取り巻きを引き連れて、エントランスを闊歩していた。


「さぁ、今日はどこに行くか?」


「この前のお店、凄く美味しかった~。」


「そうか、じゃ、またそこにするか。」


「やった~。」


人目も憚らず、そんな会話を交わしながら、会社を後にして行く裕を見て


「全く、なんなんだよ、ありゃ。」


「会社をなんだと思ってるんだろう、あの人?」


彼の姿が消えた途端、そんな声が居合わせた社員の間から上がる。


「それにしても、どうにもならないバカ息子だね・・・。」


周囲の声に呼応するかのように、貴恵が呆れ果てたように言う横で、凪咲はやはり黙って、ただ悲しげな表情を浮かべていた。


仕事が終わり、そのまま真っすぐに家路に着いた凪咲は、自宅に着いて、着換えるとすぐに夕飯の支度に取り掛かった。30分ほどで出来上がった料理を、テーブルに並べ、箸を取る。


(うん、今日もいい出来だ。)


満足げにひとつ頷いた凪咲だったがふと


(そう言えば、私の料理、裕も喜んで食べてくれたよね・・・。)


そんな思いが過り、あの頃は、もっと手の込んだメニューも作っていたな、と懐かしい気持ちも込み上げて来る。そう言えば、一緒に暮らしていて行くうちにはいつの間にか、朝食は裕、夕食は凪咲と役割分担が決まって、一緒に家で食事をする機会が増え、外食はあまりしなかった。


あの頃は、一緒にいろんなことを話しながら、夕飯を摂る時間が、自分にとっては大切な、そして楽しかったが


(裕は私に合わせてくれてただけで、本当は、もっと美味しい物を外で食べたかったのかもしれないな・・・。)


そんな思いが浮かんで来て、胸が痛む。
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