ウソから出たマコト~ニセモノの愛から生まれたホンモノの恋~
迎えた土曜日。凪咲は久しぶりに故郷に向かう列車の中にいた。もともと、あまり実家に戻ることが少なかった凪咲だが、裕との同居を解消して以降は、ますます足が遠のいてしまっていた。


見合いの話を蹴り、男と婚前同居した挙句、破局したという顛末は、まだまだ保守的な考え方が根強い凪咲の郷里では、決して好意的には受け取られなかったし、最初は同棲相手だった裕に怒りを向けていた父も、やがて、我が儘を言わずに、俺の言う事を聞いておけばよかったんだと言い出すようになったからだ。


当然、今回の帰郷も気が重いこと、おびただしかったが、そんな状況をよく知る兄が、あんなことを言って来た以上、娘として、知らん顔は出来なかった。


駅に降り立った凪咲を、佐山充希(さやまみつき)が迎えに来ていた。高校卒業まで過ごした地元でも、東京に出てからの大学、社会人時代も、それなりに友人は多かった凪咲だったが、勤めていた会社を退職してからは、極端に交友範囲が狭くなっていた。正社員から派遣社員になり、収入が減ってしまったこともあり、とにかく凪咲が友人たちとの交流に積極的ではなくなったことが原因だった。連絡を取り合う人も激減する中、小学校から高校まで一緒だった充希は、交友関係が続いている貴重な1人であり、と同時に兄勉の婚約者という近しい立場でもあった。


「よっす。」


凪咲の姿を認めた充希が、そう言って迎えると


「おはよう充希。お迎えありがとう。」


凪咲は、思わず笑顔になる。


「いえいえ。久々に凪咲の顔を見られるから、楽しみにしてた。」


「ごめん・・・。」


「本当にごめんと思うんなら、たまには帰って来い。みんな心配してんだぞ。」


「充希・・・。」


その自分の言葉に、思わず俯いた凪咲に


「さ、とりあえず行くよ。」


笑顔で言うと、充希は歩き出した。ふたりが車に乗り込むと


「お父さん、そんなに具合悪いの?」


凪咲が尋ねると


「まぁね。でも・・・大したことないよ。」


充希は答える。


「えっ?」


「それより凪咲。悪いけど、ちょっと寄り道させてもらうよ。」


「寄り道・・・?」


「付き合って欲しい所があるんだ。」


そう言って、充希は車を走らせる。予期せぬ展開に、戸惑いの色を隠せない凪咲だったが、今はおとなしく助手席に座っているしかなかった。
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