ウソから出たマコト~ニセモノの愛から生まれたホンモノの恋~
「どうしても、君と1度、キチンと話がしたくて、佐山さんを通じて、お兄さんにお願いしたんだ。」


「私の会社が今、地元温泉旅館の日帰り温泉巡りのバスツワ-を企画しててね。私も関わってるんだ。それで、最近打ち合わせとかで、廣田くんと顔を合わせる機会が何度かあって。」


観光会社に勤めている充希が言う。


「佐山さんとは成人式の時の同窓会以来だから、懐かしくて、仕事の話が終わってからも、いろいろ話させてもらっているうちに、佐山さんが菱見さんのお兄さんの婚約者だってことがわかって・・・それで無理を言って、お願いしたんだ。全ては僕の我が儘、どうかおふたりを責めないで欲しい。」


そう言って、頭を下げる廣田に


「別に責めるつもりはないけど・・・。」


尚も戸惑いを隠せない凪咲。


「ということで、いきさつの説明はここまでだ。あとはふたりで話してくれ。」


そう言って、前に座っている恋人に目で合図を送ると、勉は立ち上がった。


「おにい・・・。」


「ありがとうございます。」


頭を下げる廣田に1つ頷くと、勉は充希と共に席を離れて行く。


そして、残された2人の間には、なんとも言えない空気が流れる。


「今日は本当にごめん。こんなだましたような形になってしまって・・・。でも、僕が君と会いたいと正直に伝えても、君は来てはくれなかったよね、きっと。」


「・・・。」


「とりあえずさ、なんか注文しよう。さすがにこの時間に、席だけ占領してるわけには行かないから。話はそれからだ。」


「わかった。」


頷いた凪咲は、横にあるタブレットを手にする。


「私たちが高校生の時には、こんなのまだなかったよね。」


「うん、というか想像もつかなかった。」


「確かに。」


「私が仕事の帰りにたまに寄るファミレスは、料理を運んでくるのもロボットくんだからね。」


「そうか・・・旅館の仕事もあの感染症騒動を機に、だいぶ変わったよ。もちろん、人手不足ということもあるけど、今はいかにお客様との接触を減らせるかが、主眼になって来たからね。接客業、観光業の基本は、いかにお客様に接して、そのご要望にお応えするための、きめ細かなサービスを提供するかが大切だったのに・・・。」


「私の会社も同じだよ。私、今受付嬢をしてるんだけど、そんな仕事、なくても何の問題もないなんて、言うお偉方もいて・・・接客とか受付って仕事はなんか、肩身の狭い思いをすることが多くなって来た気がする。」
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