ウソから出たマコト~ニセモノの愛から生まれたホンモノの恋~
「でも、そのうち、君は来なくなったし、学校も別だったから、だんだん君の記憶も薄れていったんだけど、高校の入学式で、たまたま君を見掛けて、びっくりしたんだ。僕の知ってる君とは、だいぶ大人びてたけど、でも僕はひと目で菱見さんだってわかった。同じ高校になったんだって嬉しかったよ。」


「・・・。」


「でも1、2年はクラスは違ったし、実行委員も結構忙しくて、必要以上の会話は交わせなかった。3年になって、ようやくクラスが一緒になったけど、その頃になると、受験でみんながバタバタしだして・・・結局、君に自分の気持ちを伝えるタイミングも勇気もないまま、卒業。君は東京の大学に進学して、遠い存在になってしまった。」


「廣田くん・・・。」


「成人式に君が帰って来ると聞いた時には、本当にラストチャンスだと思ったんだ。覚悟を決めて、自分の思いをぶつけるつもりだった。でも、言えなかった。2年ぶりに会った君は、洗練された大人の女性になってて、まぶしかった。いや、僕にはまぶし過ぎた。もうとても、僕の手が届くような人じゃない、怖じ気づいて、諦めてしまったんだ。本当に情けない話だよな。」


そう言って、自嘲の言葉を吐く廣田を凪咲はなんとも言えない表情で見つめる。


「そしたら、なんと親が君とのお見合い話を持って来てくれてさ。大袈裟じゃなく、小躍りしたよ。天は俺にチャンスをくれたって。でも・・・結局はぬか喜び、君には会う前にあっさりと断られてしまった。」


「ごめんなさい。」


「そんな、謝らないでよ。世の中、そんなに甘くはない。自分が散々、勇気がなくて逃げ回っていたんだから、仕方がない。そう諦めるしかなかった。」


「・・・。」


「それから、親に言われるままに何度かお見合いもした。素敵なお嬢さんばかりだったけど、やっぱりダメだった。僕に菱見さんを忘れさせてくれるまでの人とは巡り合えなかった。」


その廣田の言葉に、凪咲はハッとしたような表情になる。


「そして、僕は今年28になった。それなりに名前のある旅館の跡取りとしては、そろそろ身を固めないと、世間体が悪い年齢になってしまったらしい。」


そう言って、一瞬苦笑いを浮かべた廣田だったが


「そんな時に、佐山さんと再会して、彼女と君の関係を知った時、僕はようやく決心がついたんだ。君にきちんと自分の気持ちを伝えようって。」


そして、廣田は改めて、真っ直ぐに凪咲を見た。
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