パーフェクトブルー -甘くて眩しいきみの色-




片付けてもない部屋に男の人をあげたのははじめてだ。

ましてやはじめて部屋にあげた男がこんなに血だらけなんて。



家が近いから手当する、という理由でこの男を家に入れてしまったわけだけど、本音はもう少しこの美しい顔を見ていたいという下心だった。



男の背が私よりもずっと高いせいで、私の暮らす狭い部屋に入った途端、なんだかさらに部屋が小さくなったように感じる。



見せかけだけのダイニングチェアに男を座らせると、私は急いでタオルと救急箱を用意した。



救急箱なんて、家族が勝手に家に置いていったもので、私使ったことないけど。


私の部屋には、ガラクタみたいなベッドと、ダイニングチェアと、勉強道具すら乗り切らない小さなテーブルがある。


そして部屋の大半を絵を描くスペースとして使用していた。




男の額に、濡れたタオルを押し付ける。

男の膝の間に立ち、私はなるべく力を入れないように、そっと額の血を擦った。


痛くないのか彼の表情には変化がない。


男は大人しく私の方へ顎を持ち上げ、その美しい顔を無防備に見せた。



「痛くない?」



「……あぁ。」



歯切れの悪い返事を無視して、私はゆっくりと血を拭ってゆく。

こめかみあたりが切れていて、そこから血が溢れているみたいだ。



「病院に行った方がいいと思うけど」



私が聞くと、男は「すぐ治る」と、またもや曖昧な返事をしてくる。


あれだけ記憶に残っていたこの顔を、こんな近くで見ることができるなんて。


彼の額の血を拭いながら、まじまじとその顔を観察した。


整った眉毛に綺麗な鼻筋、そして毛穴一つ見えない陶器みたいな肌。

形のいい唇の端は切れて血が滲んでいる。


彼をの事を、ただ美しいと一言で終わらせてしまうのが惜しいくらい。


完璧な配置で完璧なパーツが並べられたみたいな、そんな感じ。


嫉妬してしまうほどの美しさ。

骨の形から美しく、バランスの取れた顔なのがよくわかる。



本当に、石膏像みたい。



これ以上血で前髪が汚れないように、と
そっと手でよけている髪の毛すらやわらかくて綺麗だった。



お互いにさっき初めて言葉を交わしたというのに、なぜか私は彼を躊躇いもなく手当していて、彼はそれを大人しく受けている。


長いまつ毛が、私が手を動かすたびに少し揺れる。


あぁ、なんて綺麗。

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