きみの色

なんでもない、とまたいつもの柳に戻る。


「これ、被ってろ」


自分がかぶっていたキャップを、深々と私に被せる柳。


視界が暗くなる。



「あんまりそうやって笑ってると、悪い男に攫われるぞ」



「悪い男ってどんな男よ」



「…。あぁいうの」と、柳は浜辺でナンパをしているであろう男の子に視線を向けた。



「…柳は、その悪い男なの?」



にやりと笑った私に、柳は首を傾げる。



「私のこと攫ってくれる?」



私の言葉に一瞬だけきゅっと眉根を寄せた柳が手を伸ばして、パーカの襟を掴んできた。


そのままぐいっと引っ張られ、顔を近づけられる。


細められた瞳が、至近距離で私を捉えている。



「いつからそんな悪い子になったんだ?」



そう言って口の端で笑った。



「…柳だって、ナンパされてたでしょ。さっき。かわい〜おねぇさんに」



唇を尖らせて軽く睨む。


海から柳がお姉さんっぽい水着を着た女の人にしばらく囲まれていたのをさっきこっそり目撃してしまっていた。


「鬱陶しくて顔も覚えてない」


揶揄ってみただけなのに、面白い答えが返ってこない。
彼はそんな男だ。

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