きみの色
「優しいんだね?葉月ちゃんは」
細めた漆黒の目が私を見る。
そして私は、彼がどうして掴めないカンジなのか気がついた。
たぶん、目が笑っていない。
柔らかな表情なのに、その瞳の奥は鋭さを残している。
そのちぐはぐさが、彼がふわふわと宙に浮いたみたいな雰囲気を纏っている原因なのだと思う。
やっぱり、不思議な人だなぁ…と私は感じつつも、せっかくご馳走していただいたものを残すまいと、目の前にある物をなるべく急いで口へと運んだ。
「駅まで送るよ。駐車場に車を止めてあるんだ」
と、カフェを出るなり鈴木さんが言った。
「いや!いいです…!歩いて帰れます…!」
「その重そうな荷物を持って?」
鈴木さんはわたしが手に持っている、分厚い画集が何冊も入ったカバンに目をやる。
確かに腕がちぎれそうなほど重い。
そしてまた、すこし強引に彼の車へと促されてしまった。
紳士的に、私が助手席に座った後、扉まで閉めてくれる。
車内はかすかに、煙草の香りが残っていた。
びゅんびゅんと、窓の外を流れていく景色を見つめながら鈴木さんの車に揺られる。
この人は、どうして優しくしてくれるのだろう。
たまたま通りがかりに、傘を貸しただけなのに。