パーフェクトブルー -甘くて眩しいきみの色-
「あの変な奴ら、知り合い?」
私の問いに、男は目を閉じたまま答える。
「いや、隣の市の高校の奴ら。よくああして絡んで来る」
"ああして"と言われて、この前の信号待ちの時を思い出す。
あんなのが、"よく"起きてる…
私は言葉を反芻しながら苦笑いした。
「だからいつも血だらけなの?」
「…? "いつも"?」
彼の瞳がパチリと開く。
群青の瞳が、私をじっと見つめる。
深い深い青のなかに、少しだけ緑が混じっているみたいだ。
どんな絵の具を混ぜたら、この瞳の色になるのだろう。
「あぁ、アンタ。"デイジー"の前の交差点にいた…」
"デイジー"とは、私が働いているカラオケ屋の名前。
「覚えてるの…?」
その場に居合わせた、ただの野次馬の1人だったのに。
男は視線を落とし、口の端で笑った。
薄暗い部屋のオレンジの電球の光が、長いまつ毛を透けて頬に影を落とす。
「周りが騒いでる中、ひとりだけずっと俺のことを見てただろ。
それが妙で、なんか可笑しくて覚えてる…」
うん、私だな…。
無性に恥ずかしくなり、顔が熱くなる。
私はそれを隠すようにして、血で少しだけ赤黒くなったタオルを荒々しく手渡し、彼の額の傷にニコちゃんマークがプリントされた絆創膏を貼り付けた。
「はい、あとは自分でどうぞ…!そのタオルはあげる!」
彼はきょとんとして、しばらくしてから口元の血をぬぐい始めた。
顔についていた血がだんだん落ちて、まるで石膏像の様な顔が露わになってゆく。
「…それ、アンタの絵か?」
救急箱を片付けていると、男が言った。
視線の先には私の描きかけの自画像と、壁に立てかけてある無数の絵がある。
絵の具や筆なども片付けずにそのまま置いてあるままのブルーシートを引いたスペース。
「うん…まぁ。」
彼は椅子から立ち上がり、私の描いた絵に近づく。