きみの色
『一度は抑えたんだが、また戻ってきてるらしい。
またうちのが見つけて、何度かやり合ったみたいだ』
「そうなんだ。…大丈夫だったの?その後輩達は」
どうやらまた揉め事のようだ。
柳がいつもどこで何をしているかはよく知らないけれど、学校以外にいる時は大抵こういった“揉め事”に巻き込まれているらしい。
それが喧嘩なのか、なにかは私は聞いたことがない。
けれど、彼は阿久津沢のキングだ。
直接は聞かないけれど、なんとなく想像がつく。
だって、初めて柳にあった時も
血だらけだったし…
彼の人生だもん。
私が口を出すことではない。
それに、柳が誰かを傷つけるために喧嘩をしているわけではないことを知っている。
『あぁ。アンタも気をつけろ。遅い時間に1人でいる時、遠慮なく連絡しろ。すぐに駆けつける』
「うん。わかった。ありがとう」
しばらくは夜道は気をつけて帰ることにしよう。
またあんなのに絡まれるなんてごめんだ。
『葉月』
「うん?」
『少し落ち着いたらまたうちへ来い。かぼすとばーちゃんが会いたがってる』
私の名前を呼ぶ優しい声に、胸がキュッと締め付けられる。
彼の匂いが、声が、あたたかさが恋しい。
だけど、今はやることがたくさんある。
これはきっと私の人生の大事な一歩だ。
だから、今は我慢…
「うん。もちろんだよ」
私はそう言って通話を切った。
今目の前にある、この一歩を大切にしたい。
柳に会いたい気持ち、今はそっと胸にしまって
再スタートを始めよう。
私はそう意気込んで、イーゼルに置いてあった鉛筆を手に取った。