きみの色





「すごい…!面白く書けてますね」



「一気に読んじゃいました」と、目の前に座って足を組んでいる鈴木さんに論文を返す。



図書館の隅のソファー席。

向かい合って座る私たちは、声に気をつけながら、約束通りに鈴木さんの論文について話し合っていた。



「嬉しいよ。まだ途中なんだけどね」


「続き、出来たらまた読ませてください」



そう言うと、鈴木さんは目を細めて笑った。



「葉月ちゃんは、美大を目指してるんだよね?」


「はい…。恥ずかしながら浪人生です」



苦笑いをこぼしながらそう言うと、



「どうして、美大を目指してるの?」



と、鈴木さんが少しだけ身を乗り出して言った。



「父が、画家なんです。だから…って言ったらあれですけど…。」


「そう…」


「もちろん絵を描くのが好きです!…だけど、どうして美大を目指すのって聞かれたら、父のためにっていう気持ちの方が大きいかもしれません」


「お父さんの?」


「父はかなり有名だから…、その娘が芸術の道から外れることを許していなくて」



って、何話してんだろ…
べらべらと。


鈴木さんは相変わらず穏やかな空気を纏ったまま、話を聞いてくれていた。

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