きみの色

鈴木さんは苦しそうに目を閉じ、手を額に当てていた。


水を渡して様子を見る。



「鈴木さん、家どこですか?鈴木さんがいいなら私そこまで運転できます」


「ここからすぐのところだけど…え、葉月ちゃん…運転できるの?」



タクシーを呼んで彼を運ぶよりも、わたしが運転して行ったほうが早い。



「大丈夫です」と、免許証を見せる。


大学受験に失敗した後すぐに、私は合間を縫って短期で車の免許を取っていたのだ。


何かの役に立つかな…とか、大学受験失敗の気を紛らわせるために、そんな軽い気持ちで取ったのに、


まさか、こんなところで役に立つとは。


免許取っといて良かった…
人助けのために使えるなんて。



鈴木さんから住所を教えてもらい、事故を起こさないように充分に気をつけながら、超安全運転で彼の家へと向かった。


着いたのは駐車場までついている、高そうな高層マンションだった。


彼の体を支えながら教えてもらった部屋へと進んでゆく。


鈴木さんはさらにぐったりとしていて、顔色もどんどん悪くなっていってる。


早く、ベットに連れて行かないと。



「着きました」



七階の角部屋、教えてもらった暗証番号を入力して彼の部屋へと入る。


必要最低限のものしかない、がらんとした部屋。

カーテンは全て閉め切っていて、照明すらついていない。


あるのは部屋の隅に置かれた小さな間接照明だけ。



寝室らしきところに連れていくと、苦しそうに胸を上下させながらベットに横になった。

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