パーフェクトブルー -甘くて眩しいきみの色-
「綺麗だな、この色」
男の指先が、そっとキャンバスを撫でた。
それは幼い頃、祖父からもらった絵の具で描いた初めての絵だった。
いろんな色が混ざった青、だけどどこか奇麗で神秘的な色が、キャンバス全体に星のように散りばめられている。
私は今でもこの青を探している。
絵を描くのが楽しくて、無我夢中で描いていた頃のもの。
今の私には、到底描けそうもない。
「これは?なんか、アンタに似てるな」
男がイーゼルの上に乗った、描きかけののっぺらぼうの自画像を指した。
「それは、自画像。課題なの」
男はよくわからないとでも言うように首を傾げる。
「デイジーがある通りに、古い判子屋があるの知ってる?その3階の絵画スクールに通ってるの。その課題」
「へぇ。…ー近くへはよく行くけどそんなスクールがあるなんて知らなかった」
そして「これはどうして顔がないんだ?」と続けて問う。
私は言葉に詰まった。
「うまく、描けなくて…。自分がどんな顔をしているのか、よくわからないから…」
思った言葉をこぼしながら、必死に繋いでみたものの、理由とは言えないような内容。
「…なら、俺が描いていい?」
男はそう言って、私の顔を覗き込んだ。
美しい顔が急に目の前に現れて、思わず後退りする。
ふ、と目を細めた男が迷いのない動きで
パレットにあったまだ乾いていない絵の具を、指先で掬い取り私ののっぺらぼうの上に乗せた。
乗せられた絵の具が、滑るようにして男の指先によって形取られてゆく。