きみの色

あっという間に、間のぬけた表情が
のっぺらぼうだった私に描かれる。



それは精密に描かれた他の髪や肌とはまるで違うタッチで、ただの太い線画。



少し吊り上がった眉毛に、丸い目、漢字の一みたいな口。



なんだかアンバランスな全体像に、私は思わず吹き出した。




あれだけ悩んでいたのが馬鹿みたいだ。



「私ってこんな顔?」



なんか怒ってるように見える。

なのに、どこか愛着が湧く、絶妙な線。



「このほうが、ずっとアンタに似てる」



ずっとずっとリアルを意識して描く線を追求してきた。

それなのに、この男が描いた決して上手いとは言えないこの線のほうがずっとよく見えるのはどうしてだろう。




"楽しいかい?葉月。楽しければ、それでいいんだよ。"



おじいちゃんの言葉を思い出す。

私に初めて絵を描くことを教えてくれた、おじいちゃん。



そうだよね。
楽しく描くのが一番だよね。



男が筆を加えた自画像にそっと指先で触れた。

なんだか、悩んでいた心のモヤモヤがすっと楽になった気がする。



「絵、上手だね。なんだか本当に私に見えてきたよ」



「そう?アンタの方が上手いだろ」



男は私を見て笑うと、学ランのような上着を手に取り玄関に向かった。


やはり学生なのか、裾に白いラインが入っている黒い詰襟の上着は学生服っぽい。


着ているシャツの首の裏部分には、複雑な形から成る星の模様のような刺繍が施してあるのが見えた。



「いろいろと助かった。ーーアンタ、あんまり遅くに出歩かないほうがいい」



振り返った彼の額から、彼の美しさとは不釣り合いなニコちゃんマークが覗く。



「ーーそれと、初めて会った男を家にあげるのも危険だからやめたほうがいい」



そう言って彼はすっと目を細めると、私の腕を掴んで自身の胸に引き寄せた。


ぐっと距離が縮まり、私の鼻先が彼のシャツを掠める。
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