パーフェクトブルー -甘くて眩しいきみの色-

「まだ連絡ない。もしあったら俺が迎えに行くわ」と、由井くんが自分の手首に包帯を巻きながら答える。



「そう…。じゃあ、あたし葉月ちゃん送ってくるから」



蘭子さんがそう言って、車のキーを持って立ち上がった。



「え…でも、まだ…」



「葉月ちゃん。貴方が一番の被害者なのよ、帰って休みなさい」と、眉を吊り上げた蘭子さんが口を尖らす。



「そうだぜ。佐百合のことは任せとけって」



由井くんがニコリと笑った。

2人に言われるがまま、私はお店を出て家に帰ることにした。



「葉月ちゃん。それ…」



アパートに着いて部屋まで行くと、蘭子さんは言葉を詰まらせながら私の髪に視線を向けた。



「あ…」



すっかり忘れていた。

私の髪は笹倉のナイフに切り落とされ、原型をとどめていない。

左側半分はほとんど短く切られ、残されたところは長いまま。

オモチャの人形に子供がいたずらしたみたいな、ちぐはぐな髪型になってしまっていた。



「いいんです。自分でやったようなものなので」と、笑って見せる。



「けど、このままじゃちょっと変ですね…」


「…ハサミある?」



整えるくらいしかできないけど、と蘭子さんが笑った。



2人で狭いユニットバスに入り、1番短い長さに合わせてもらう。

蘭子さんがハサミを動かすたびに、私の髪の毛がぱらぱらとビニールを敷いた下に落ちていった。



「はい、できた」



と、肩をポンと叩かれ、首のところで切り揃えられた自分を鏡で見る。

うん、悪くない。

かなり短くなっちゃったけど…


思ったよりも悪くない自分のショートカットにそっと触れる。

今まであったところに私の髪はなかった。


だけど、なんだか頭が軽くなった気がする。


「あとでちゃんとプロに切ってもらってね」
と、帰り際に蘭子さんは言った。

< 159 / 173 >

この作品をシェア

pagetop