パーフェクトブルー -甘くて眩しいきみの色-
「まだ連絡ない。もしあったら俺が迎えに行くわ」と、由井くんが自分の手首に包帯を巻きながら答える。
「そう…。じゃあ、あたし葉月ちゃん送ってくるから」
蘭子さんがそう言って、車のキーを持って立ち上がった。
「え…でも、まだ…」
「葉月ちゃん。貴方が一番の被害者なのよ、帰って休みなさい」と、眉を吊り上げた蘭子さんが口を尖らす。
「そうだぜ。佐百合のことは任せとけって」
由井くんがニコリと笑った。
2人に言われるがまま、私はお店を出て家に帰ることにした。
「葉月ちゃん。それ…」
アパートに着いて部屋まで行くと、蘭子さんは言葉を詰まらせながら私の髪に視線を向けた。
「あ…」
すっかり忘れていた。
私の髪は笹倉のナイフに切り落とされ、原型をとどめていない。
左側半分はほとんど短く切られ、残されたところは長いまま。
オモチャの人形に子供がいたずらしたみたいな、ちぐはぐな髪型になってしまっていた。
「いいんです。自分でやったようなものなので」と、笑って見せる。
「けど、このままじゃちょっと変ですね…」
「…ハサミある?」
整えるくらいしかできないけど、と蘭子さんが笑った。
2人で狭いユニットバスに入り、1番短い長さに合わせてもらう。
蘭子さんがハサミを動かすたびに、私の髪の毛がぱらぱらとビニールを敷いた下に落ちていった。
「はい、できた」
と、肩をポンと叩かれ、首のところで切り揃えられた自分を鏡で見る。
うん、悪くない。
かなり短くなっちゃったけど…
思ったよりも悪くない自分のショートカットにそっと触れる。
今まであったところに私の髪はなかった。
だけど、なんだか頭が軽くなった気がする。
「あとでちゃんとプロに切ってもらってね」
と、帰り際に蘭子さんは言った。