パーフェクトブルー -甘くて眩しいきみの色-

先ほどまで蘭子さんが握っていたハサミが、洗面器の中に転がっている。



「風邪ひいちゃう」



伸ばした手を柳が止めた。


柳が頬に手を添え、親指でくちびるの傷を撫でられる。

出血はもう止まっているが、まだちょっとだけ口の中がサビっぽい。


そして彼の手はそのまま短くなった髪をすいた。

柳の群青色の瞳が曇り、そして暗くなる。



「ごめん…」



消え入りそうな声でそう言った柳の方が、私なんかよりももっと傷だらけなのに。


そんな苦しそうな顔しないで…


頬にある柳の手を、私はそっと掌で包み込んだ。



「いいの。大丈夫だよ。柳のせいじゃない」



それに、と言葉を続ける。



「柳とはじめてのおそろい」



優しく彼の口元にもある傷に触れて笑う。

柳はそのまま片手で私を抱きしめた。
泣きそうな顔で。


彼の胸に耳を当てると心臓の音が、聞こえてくる。


私が彼に守られるように、私も彼を守りたい。

一定のリズムで鳴る鼓動を感じながら、私はそう思った。


壊れ物に触れるみたいに、彼の指先が私の輪郭をゆっくりと移動してゆく。

< 161 / 173 >

この作品をシェア

pagetop