パーフェクトブルー -甘くて眩しいきみの色-
先ほどまで蘭子さんが握っていたハサミが、洗面器の中に転がっている。
「風邪ひいちゃう」
伸ばした手を柳が止めた。
柳が頬に手を添え、親指でくちびるの傷を撫でられる。
出血はもう止まっているが、まだちょっとだけ口の中がサビっぽい。
そして彼の手はそのまま短くなった髪をすいた。
柳の群青色の瞳が曇り、そして暗くなる。
「ごめん…」
消え入りそうな声でそう言った柳の方が、私なんかよりももっと傷だらけなのに。
そんな苦しそうな顔しないで…
頬にある柳の手を、私はそっと掌で包み込んだ。
「いいの。大丈夫だよ。柳のせいじゃない」
それに、と言葉を続ける。
「柳とはじめてのおそろい」
優しく彼の口元にもある傷に触れて笑う。
柳はそのまま片手で私を抱きしめた。
泣きそうな顔で。
彼の胸に耳を当てると心臓の音が、聞こえてくる。
私が彼に守られるように、私も彼を守りたい。
一定のリズムで鳴る鼓動を感じながら、私はそう思った。
壊れ物に触れるみたいに、彼の指先が私の輪郭をゆっくりと移動してゆく。