パーフェクトブルー -甘くて眩しいきみの色-





「あら、葉月ちゃん。髪の毛切ったのねぇ。似合ってるわ」



二階堂先生の塾の時間を終えた帰り際、先生の奥様が通りかかり私の顔を見てこう言った。


あの日から数日が経ち、髪の長さにも少し慣れてきたところ。


にこやかに微笑む先生の奥様の言葉に、ちょっとだけ恥ずかしい気持ちで笑みを返す。


案外こっちの方が良かったのかもしれない。

長かった髪の毛はまっすぐで手入れをしていない割に艶があって自慢だったが、頭が軽くなった今もずっと良い。


おじいちゃんに髪を褒められた思い出を思い返す回数が減ってしまうのは少し惜しいけれど、後悔はしていない。



二階堂先生の家を出ると、私はその足で『orchid』に向かった。


今となってはもうすっかりお店の常連だ。

事あるごとにお店へ向かい、みんなと一緒に時間を過ごしている。



「こんにちは」



ドアから顔を出すと、カウンターの奥にあさひくんがいるのが見えた。

ランチタイムは営業してないけれど、蘭子さんが私達の溜まり場として店を開けてくれている。



「葉月さんっ!」と目を輝かしてこちらをみてくるあさひくん。


歳の近い弟を持ったみたい。
そのキラキラした瞳が可愛くって胸がきゅっとなる。



奥のいつもの席には柳と由井くんが。

トイレの横にある小さな倉庫からは蘭子さんが。
調味料が入った箱を抱えて出てきた。


蘭子さんに挨拶をして奥の席へと向かう。



「怪我の具合はどう?」


「俺はほぼ全回。まぁ、まだ傷だらけだけど」



柳は答える代わりにギプスの取れた腕を見せてきた。


みんな絆創膏や包帯などはあるものの、元の調子に戻って、直後の痛々しさは消えている。

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